• 呪われたジグゾーピース。徐々に輪郭の出てくる地獄絵図

    もう3週間前になるのですが、行方不明展というホラー展覧会に1人で行ってきました。彼女を誘ってみたもののやんわり断られ、友人にもホラー好きがいないためのソロ活です。おそらくこの展覧会に来る客も自分みたいなピンのホラー好きばかりだろうなと思っていたらびっくり。そこには若いカップルやイケイケな学生グループばかりが群れをなしていました。Z世代はホラーが好きとは聞いていたもののまさかここまで浮くとは。この状況がホラーでした。

    行方不明展は博物館×ホラーという独特の味わい。たとえばなんの変哲もない貼り紙に、意味深な解説がつくことでその展示品が不気味なものに変わるという、独特の演出がなされています。また展示品にはいかようにも解釈できる余地があり、背後にある物語を一人一人が考察できる仕組みになっていました。筆者は「失踪願望のある人があるスポットを使うことで、自分という存在を消せる場所に行く」というストーリーを展示物から感じ取りました。もちろんこの解釈が正解ではありません。

    行方不明展に行ったとき、この展覧会の作者の1人である梨という人物に興味を持ち、この人の書いた小説を読んでみました。梨です。食べ物ではなく作者の名前です。

    それが「6」という小説です。事前情報ほぼゼロの状態で読んでみました。

    読んだ印象は呪われたジグゾーピースです。6章構成なのですが章が進むほどに物語の背景にある世界観がわかってくる構成になっています。話が進むにつれピースが嵌り、一枚の絵が浮かんでくる仕組みになっています。最初の章はよく分からないけど不気味な夢をみたような感覚。背後の設定がよく分からないけど不気味さだけは伝わってきます。2章、3章と展開していくにつれて、こういう小説だったのか、ということが分かってきます。そして不気味さも増してくる。頭の中でジグゾーピースが組み立てられていくのだけど、完成された絵は地獄絵図なんじゃないかと推測できてしまう。

    そして6章でおぞましいクライマックスを迎えます。「読んでからも恐怖が続く」というのがこの小説のキャッチコピーなんですがよくわかります。軽くネタバレすると仏教の教えが絡んでくるのですが、それをこう底意地悪く料理とするのかと、ある意味感心してしまいました。

    けして読後感は良くないホラーですが、それゆえに中毒性があります。最近のアトラクションホラーには飽きたという方は是非読んで下さい。纏わりつくような気持ち悪さを味わえますよ。

  • 文学フリマに行ってきました

    実はブログと並行して小説を書いているのですが、最近行き詰って書きあぐねていました。なんとなく書くモチベーションは下がっていく一方、これはまずいと思った時、文学フリマの存在を知りました。

    文学フリマ。文学のフリーマーケット。コミケの文学バージョンを想像していただくと分かりやすいのではないでしょうか。アマチュアの書き手さんが自作の小説や短歌、エッセイを売っているそうです。小説を書いている人はおろか、読んでいる人を見つけるのも難しいこの時代、アマチュアの書き手が一同に介する文学フリマに行って刺激をもらっていこう。そう考え、会場のインテックス大阪に弟を連れて行ってきました。

    事前情報はほぼゼロの状態で行った僕は、正直規模感はまったく掴めませんでした。くどいようですが小説の書き手はおろか読み手すら見つけるのが難しいこの時代、はたして素人の作家の書いた小説を求めてどれだけの人がくるのか・・・・。

    行ってみて驚きました。人がめちゃくちゃ集まってて、賑わっていました。本好きが一体どこに今まで隠れていたのか、出版不況が嘘のような活気。ただそこは本好き独特の静かな活気、とでもいうような空気感がありました。文学フリマのある2号館の隣の3号館ではコヤブソニックがやっていたのですが、そこから出てくる人の活気とはまた違った文化系の人×5,000人の活気です。

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    会場には1,000点以上のブースがあり、めぼしい本がないか会場を探索しました。ブースに出店されている本は本当に多種多様。ヤクザの短歌集や、AV監督の書いた映画論の本、はたまたここでは書けない変態性欲を爆発させた本まで、書店に出回らないニッチな本がたくさんありました。

    文学フリマを歩いて僕は正直疲れました。言ってみれば書店は管理の行き届いた動物園、文学フリマは野生のジャングル。油断していると書店では見かけないような妄念の爆弾みたいな本に出会います。ネットで話題とか、何々賞受賞とか分かりやすい看板のない無数の本の中から、直観を働かせて一つの本を選ぶのが難しい。自分が今までいかにお膳立てされた世界で本を選んでいたのか痛感しました。

    僕がもぞもぞしている間に、弟は何冊かの本をピックアップしていました。その中から西之まりもさんの「佐伯家の一週間」という本と、大阪芸大文芸学科の「出目金と翡」という本を買いました。(ちなみに後者はタダ!)この本についてはおいおい語ろうと思います。

    文学フリマに行って収穫はありました。アマチュア作家さんたちの内に秘めた活力に直に触れられたところと、自分の見ていた世界はまだまだ狭かったということを自覚できた点です。

    来年は直観で光る本を選べるようになり、いずれは自分が出店する側に回れるようになりたいと思います。

    さあ、書くか!

  • 日本人初!ダガー賞受賞!まるで映画のような迫力

    僕は読書以外にも映画鑑賞が趣味です。特にホラー映画やバイオレンス映画が好きです。現実にホラー体験や暴力体験はしたくないんですけど、フィクションは別腹。よくマニアックなホラー映画をネットで見つけては映画館で観ています。

    今回おススメしたい本は、日本人で初めてダガー賞を受賞した「ババヤガの夜」。日本人初という惹句に惹かれて手に取りました。ダガー賞はイギリスの推理作家協会が主催する賞で、世界の名だたるミステリー作家が受賞する世界を代表する賞です。日本では東野圭吾や伊坂幸太郎などの錚々たる顔ぶれがノミネートするも受賞ならず。そういうすごい賞なんです。

    この小説を読んだ感想は「映画やん。」でした。しかもオレが好きなやつやん。

    この小説の特筆すべきところはアクションシーンです。喧嘩と暴力が大好きな主人公の新道依子はヤクザに喧嘩を売られます。新道依子は怯むどころかヤクザと戦いボコボコにします。

    そのシーンが活字で表現されているとは思えないほどスムーズに頭に入ってくるんです。アクションシーンの映像喚起力が凄まじい。著者は格闘技の動画を見たり、絵コンテを描きながらアクションシーンを書いたそうです。

    このヤクザとの喧嘩を見た柳というヤクザにスカウトされ(というより拉致され)新道依子は組長の娘の尚子のボディーガードを務めることになります。

    散々映画みたいと評してきましたが、ババヤガの夜の魅力はそれだけではありません。この小説、後半ではあっと驚く仕掛けが施されています。その仕掛けが映像ではまず表現できないんです。小説ならでは特徴を利用して読書を驚かせてくれます。詳しくは述べられませんがそれがすごい。

    映画に肉薄する描写力と、小説ならではの仕掛け、これらがあいまってババヤガの夜ならではの作品に仕上がっています。ダガー賞受賞も頷ける出来栄えです。

    暴力描写は苦手という方にはおススメできませんが、クエンティン・タランティーノとかクローネンバーグとか好きな人にはおススメです。

  • グランマ・ゲイトウッドのロングトレイル

    67歳で3500Kmの山脈を縦断したスーパーおばあちゃん

    おひさしぶりです。最近いろいろバタバタしてて更新遅れました。

    突然ですが、僕には読書の他にも登山という趣味があり、2日前から木曾駒ケ岳に登山していました。

    そこはまさに別世界。見渡す限りに大自然のパノラマ。それは至福のひと時でした。

    移動中の特急列車で吐きそうになったり、いろいろ疲れましたがすべてが吹き飛ぶ瞬間でした。

    さて。今回紹介したい本は山つながり。山は山でもアメリカのアパラチアントレイルという3500Kmに及ぶ山脈がありまして、それを女性で初めて踏破した人のノンフィクション本です。

    それがなんと67歳のおばあちゃん。しかも登山を始めたのは67歳からという驚きの実話です。この偉業を達成したのはエマ・ゲイトウッド。通称グランマ・ゲイトウッドとしてアメリカのハイカーたちに親しまれています。

    この本ではアパラチアントレイルの過酷さと、それにめげないゲイトウッドおばあちゃんのタフさとパワフルさが書かれています。

    361ページに及ぶ分厚さの本に、アパラチアントレイルの描写とゲイトウッドおばあちゃんの人生がみっちり書き込まれているので読み応えは抜群。ただ、思ったより重厚な本なので読み手の体力も問われる内容になっております。

    3500kmの山脈を縦走するわけですから、トラブルがないわけはありません。ゲイトウッドおばあちゃんは蛇に襲われかけたり、女浮浪者扱いを受けたり、靴は何度も履き潰しながら、山を越えていきます。小屋が見つからない時は野宿もしたそうです。

    そんなおばあちゃんは実はDV夫に悩まされていた主婦だったそうです。離婚が成立するまでゲイトウッド氏は旦那に殴られたり、首を絞められたり、殺されかけた日もあったそうです。

    数々の苦難を乗り越え、ゲイトウッドおばあちゃんは3500Kmに及ぶアパラチアントレイルのスルーハイクに成功します。さらにすごいのはその後、もう2回アパラチアントレイルをスルーハイクし、標高4000フィート(1219メートル)以上の山46の山々をすべて踏破し、オレゴントレイルに成功したことです。公式の記録だけでも彼女は2万2530km歩いたそうです。

    この本を読むとすごい元気な気持ちになります。人間に限界はないと身を持って教えてもらったような気分になります。なんだかんだと年を言い訳にしたくなる年齢になってきましたが、彼女を見習って前向きに活動していきたいです。

    さあ、明日も登るぞ!

  • 口訳古事記

    こんなにオモロくて大丈夫?日本の神話が関西弁で復活!

    突然ですが古事記についてどういうイメージをお持ちですか?天皇にまつわる由緒正しい神話、日本書紀に並ぶ歴史的資料、よく分らない、難しそう。いろんなイメージがあると思いますがどちらかというと堅苦しいイメージがあるかもしれません。

    僕も田舎が島根だったこともあり、興味を持って偉い学者訳の古事記を読んでみたのですが、5ページで挫折していまいました。以来、古事記はなんだか有難そうだが難しいものとして遠巻きに見るものでした。

    しかし、僕の好きな作家の町田康さんが翻訳するということなので思い切って読んでみることにしました。しかし、一抹の不安もありました。町田康さんと言えばラフな関西弁で文学界に殴り込みをかけたパンクロッカー。町田康と古事記は水と油ではないか?町田康さんの個性が死んでしまうのでは?

    結論から言うと杞憂でした。古事記を訳す時でも町田康は町田康でした。

    以下は口訳古事記に出てきたセリフです。

    「兄貴、暇やからその辺のボケなんかしばきにいこか。」

    「めんどいから明日にしようや。」

    「ほなそうしようけ。」                                p,211

    メチャクチャフランク。ごっつ関西弁。全編こんな感じの文章が続きます。地の文も、かんざしをヘアアクセと訳したり、魑魅魍魎を八種類の気持ち悪いキャラクターと訳したり、やりたい放題。おかげでスラスラ読めるんですわ。

    そこで浮かび上がってくるのは古事記自体の物語の面白さ。学者の訳では分からなかったのですが、古事記自体が相当破天荒な物語です。

    例えば大国主神のエピソード。

    美女の八上比売という女神は大国主神が好きだという理由で、大国主神の兄たちの求婚を断ります。

    それで兄たちはわりとフランクに大国主神を殺しちゃえ、と考えます(おいおい)。それであれこれ策略を巡らせ大国主神を殺そうするのですが、その策略がメチャクチャ雑なのです。

    兄たちは大木に挟まる遊び(なんだそれ)を楽しそうにやります。それを見ていた大国主神が真似して大木に挟まっているところを潰すという謀略なのですが、大国主神は見事にひっかっかります。

    それで一回大国主神は死ぬのですが、お母さんの力で生き返ります。しかも死ぬ前よりイケメンになって復活するというオマケつき。なんでやねん。ツッコみどころ満載です。

    他にも神と女神で出会って数秒で結婚したりいろいろクレイジー。

    そう、訳もハチャメチャなのですが、古事記自体がストーリーとしてわやくちゃなのです。知らなかった。

    もともと神話というのは民の口から口へ語り継いで広がったもの。むしろ町田康さんの訳し方が本筋なのかもしれません。

    474ページの大長編ですがそんなこと感じさせない面白さ。騙されたと思って読んでみて下さい。

  • 働く君に伝えたいお金の教養

    生きてるってお金がかかりますね・・・・。急にお金の話ですみません。最近、携帯の買い替えとパソコンの買い替えが一気に来まして、生きてるって金がかかるなって当たり前のことに気がついた今日この頃です。

    お金が欲しい。そう思ったときに僕の悪い癖で、そもそもお金って何だろうと根本を考えてしまいます。就職のときもそうでしたが、そもそも働くとは何かという答えのない問いを立て、あれこれ考えるうちに時間を浪費してしまいました。僕はこれをそもそも病と呼んでいます。一見哲学的ですがまあ現実逃避ですよね。でもまあ考えてしまうわけです。お金の本質が分かり、なおかつ実践的な本はないか、と探したらありました。

    うちの本棚に。灯台下暗し。

    今回紹介したい本は出口治明著「働く君に伝えたいお金の教養」です。

    出口治明さんと言えばライフネット生命を立ち上げ、立命館アジア太平洋大学の学長だったというすごい人です。著作も多彩で哲学の歴史を総ざらいした哲学全史や、全世界史という本をてがけています。

    そんな出口治明さんの本なので、単にお金を儲ける投資本や節約本とは一線を画します。「お金は使わないと意味がない」「老後の不安をメディアが煽るのはメディアが儲けたいから」など従来の常識とは異なる意見もたくさんあります。今回はこの本のなかで特に感銘を受けたポイントを伝えたいと思います。

    投資で最も大切なのは自分への投資

    投資とは言えば株や積立NISAなどの金融商品への投資をイメージすると思います。しかし、出口さんは一番リターンの大きな投資は自分への投資だと断言します。人が一生に稼ぐお金の平均額は2億円前後だといいます。出口さんいわく、自分への投資はこの2億円を大きく増やせる可能性がある。

    株で2億稼げるのは一握りのデイトレーダーだけです。しかし、自分への投資に成功して年収が上がれば、2億円が3億にも4億にもなると出口さんは言います。その視点は全くなかったので僕は目が啓かれる思いでした。

    では自分の投資では何に投資すべきか?資格の勉強のために学校に通うべきか?

    出口さんは自分の可能性を広げるものなら何でも投資である、と言います。そして自分が好きなものに投資するのが一番いいと言います。将来がどうなっていくのか、それを予測することは出口さんですら不可能であると言います。例えばAIが今流行っているからと言って興味のないAIの勉強をしても身につく可能性は低い。ならば素直に自分の好きなこと、得意なことに投資する方がずっと身につく可能性が高いというわけです。

    たしかに僕が今から株に手を出すくらいなら、好きな本を買うことや文章を書くことに投資した方がいいと思いました。なにより楽しいし、気持ちが前向きになりますしね。

    惜しむらくはこの本が20代の新社会人向けに書かれた内容だと言うことでしょうか。不惑を目前にする前に出会いたかった。まあそんなこと言っても仕方ないのでこの本の教えを実行していきたいと思います。

    この本には他にも財産三分法など、お金の本質に触れられる内容がたくさんあります。お金は欲しいけど、お金儲けのノウハウ本には違和感を感じる方にはおススメの本です。

  • 天才と発達障害

    発達障害に限らず、なんらかの障害を抱えているとふつうに生きてるだけで自己肯定感はさがりますよね。ふつうの人ができることができない。できないことに目が向きがちな人も多いのではないでしょうか。

    今回紹介したい本はそんなひとを励ますような本です。

    その名も「天才と発達障害」。世に言う天才と呼ばれる人種は発達障害を始めとする、精神疾患を抱えていた人が多いと唱え、天才の生涯から発達障害の特徴を説明しています。

    この本で取り上げられている天才を列挙してみましょう。

    ADHD

    • 野口英世
    • 南方熊楠
    • 伊藤野枝
    • モーツァルト
    • マーク・トゥエイン
    • 黒柳徹子
    • さくらももこ
    • 水木しげる

    ASD

    • 山下清
    • 大村益次郎
    • 島倉伊之助
    • ダーウィン
    • アインシュタイン
    • コナン・ドイル
    • 江戸川乱歩

    錚々たる顔ぶれですね。これだけの有名人が発達障害だったとは驚きです。

    今回はADHDはモーツァルト、ASDはダーウィンを例に天才と発達障害の関連性について書きたいと思います。

    型破りなモーツァルト

    モーツァルトは知らない人がいないほどの音楽の天才ですが、伝記によるとかなり型破りな変人だったようです。
    彼はいつも落ち着きが無く、常に動き回り、甲高い声でよく喋ったようです。

    馬車馬モーツアルト

    モーツアルトは馬車馬のように動き回りました。朝の6時には起き、夜の9時まで生徒のレッスンや作曲、コンサートなどの予定が詰まっていたようです。モーツアルトは仕事に熱中しました。一方、家事や雑事には無頓着で中庸というものが無かったそうです。

    ギャンブル狂だったモーツアルト

    モーツアルトは莫大な収入があるにもかかわらず常に借金に追われていました。原因はギャンブルによる破産です。モーツアルトは大のギャンブル狂だったのです(しかも弱い。)

    モーツアルトに限らずADHDのひとには依存症の人が多いようです。自制心の弱さがその一因なのかもしれません。

    社会性に乏しいダーウィン

    一方のダーウィンは子供の頃から社会性に乏しく、周囲からは変わった人間だと思われていました。
    ダーウィンは子供のころから一人で長いこと歩き周り、いろんな物を収集する癖があったそうです。
    ダーウィンは特定の生物に熱中し、生態の観察や採集に没頭しました。そのころの経験が進化論に活かされたのは想像にかたくありません。

    ロイヤルニートだったダーウィン

    実はダーウィンは社会人経験がありません。家は資産家で金のことはもっぱら家に頼っていました。今でいうすねかじりのニートだったのです。しかし、そのおかげで好きな研究に没頭できたわけで、ここらへんは一般的な常識でダーウィンを評価してはいけないのかもしれません。
    ダーウィン自身も自分は社会人としてはやっていけないと薄々気づいていたのかもしれません。

    規則魔だったダーウィン

    ダーウィンには決まった日課があり、それを毎日規則正しく繰り返していました。ダーウィンは2キロメートル四方の家を毎日一定時間散歩するのを日課にし、それを数十年繰り返していました。他にも仕事の時間や妻と談笑する時間も決まっており、その規則が崩れると体調を崩しました。こういうところもASDの特徴と言えるでしょう。

    子供の伝記だと、偉人の尖った部分は削られて、ただの立派な人になっていますが、こうみると偉人たちも一癖も二癖もある人が多かったようです。

    この本を読むと個性というのは欠点の裏返しだということが分かります。

    欠点を補うことも大切ですが、自分の強みを伸ばしたり、個性を活かすことも大事なのではないかと偉大な先達のエピソードを見て思いました。

    この本には発達障害以外にも統合失調症や、鬱病などの精神障害も扱われています。

    障害に悩み自分を見失いそうになったとき、この本を読んでみてはどうでしょうか?

    個性を考えるときのヒントになるかもしれません

  • くっすん大黒

    みなさん、突然ですが活字を読んで腹を抱えて笑った経験はありますか?僕はあります。読んだのが自宅だったのでセーフでしたが、電車だったら完全に変質者でした。

    その本が僕が今回紹介したい小説、くっすん大黒です。

    タイトルからしてただものではない佇まいがありますね。
    この小説の作者の町田康氏は元パンクロッカーの小説家で芥川賞を受賞しています。純文学系の作家さんです。
    純文学のイメージと言えば、どちらかと言うと暗くてシリアスなものではないでしょうか?この小説は違います。
    どう違うのか?説明していきましょう。

    この小説の内容を説明しようと思えば5・7・5で説明できます。

    大黒を 捨てようとして 失敗し

    ただそれだけです。大黒の置物が邪魔なので捨てようとして上手くいかない男の話です。それだけの内容です。それのどこに笑える要素があるのか?

    それは文章を読んで頂ければわかります。

    もう三日も飲んでいないのであって、実になんというかやれんよ。酒を飲まらしやがるのだもの。ホイスキーやら焼酎でいいのだが。あきまへんの?あきまへんの?ほんまに?一杯だけ。あきまへんの?ええわい。飲ましていらんわい。

    一文を読んでもらえばわかりますね。ふざけているのです。この小説は全編この調子でふざけ倒しているのです。

    この小説は大黒を捨てようとして失敗する男の顛末を、狂気に近い解像度で描写します。ほぼストップモーション。しかも語り口がふざけている。
    それが当時の文壇には衝撃的だったわけです。この小説の評価は賞賛と罵倒の真っ二つに分かれました。

    この落語のような文体の他にもこの小説の魅力はあります

    登場人物全員ダメ人間

    ほんとにびっくりするくらいまともな人間が出てこないんですよ。主人公の楠木は朝から晩まで酒を飲む生活を続けて、嫁から逃げられるし、主人公の友人菊池は親のすねをかじるニートだし、その他、エセパリジェンヌのチャーミーや、蛸のアートを作り続ける狂気のアーティスト上田など強烈な人間が出てきます。
    ツッコミ不在のコントのようにダメ人間が出てきてはおかしなことをやらかす。
    僕は文学って、ここまでふざけていいの?とある意味感動してしまいました。

    まったく登場人物に共感できないし、ためになる話は一つもでてこない。この小説を読んで意識が高くなったり、成長することはほとんどない(むしろ意識は低くなるかも)と思うんですけど、不思議とだからこそ元気になる。そんな珍妙な小説です。

    目に映る人が全員自分より幸せで、有能で価値があるように見える。そんな落ちている時に読んでみて下さい。きっと元気になりますよ。

  • この世にたやすい仕事はない

    発達障害関係の本が続いたので気分を変えて小説を紹介したいと思います。

    その名もズバリこの世にたやすい仕事はない。こんな核心を突くタイトルなかなかないんじゃないでしょうか。勤めていた会社をクビになり、途方に暮れて書店にいた時、このタイトルが目に飛び込んできました。この世にたやすい仕事はない。まるでこのタイトルに導かれるようにレジに直行。買って正解でした。

    読んだ感想はと言うと、いい意味でタイトルの印象と違いました。なんかガタイのいい部長クラスのオジサンが人生訓を垂れそうなタイトルですよね。しかし、さにあらず。内容はというとすごいポップでファンタジー要素のあるお仕事小説でした。

    エンタメ精神に満ちたお仕事小説

    内容を具体的に説明していきましょう。主人公は前職を燃え尽き症候群で辞めた女性。その女性が職安の相談員に職を案内され、数々の職を渡り歩くという内容です。ここだけ聞くと実録転職小説ですね。

    しかし、案内される仕事が、なんというかすごいニッチというか、そんな仕事ないだろとツッコみたくなる仕事なのです。主人公は計5つの職を経験しますが、順を追って紹介しましょう。

    1 作家のおばさんを一日中監視する仕事

    いきなりありえない職種ですよね。仕事内容は監視カメラに映る作家を一日中監視することです。なぜ監視するかというと、その作家のおばさんは知人から密輸品の何かをそうとは知らず預かってしまったのですね。だから監視する。物品を確保するためです。作家のおばさんは監視されていることは知りません。まるで公安のスパイみたいな仕事を職安で紹介するのかよ、というツッコみをさておき、わりと淡々と作家の監視業は進みます。

    この世にたやすい仕事はないポイント

    なんとなく楽そうな印象を受けるお仕事です。一日中座っておばさんを見ているだけですからね。

    しかし、そうはいかないのです。交通整理のバイトとか、看板持ちとか、そういうバイトをしたことある人は分かると思いますが、ほぼ何もしない仕事って苦痛なんですよね。単調なことに耐性が無い人には地獄のような仕事ではないでしょうか。しかも監視対象は作家なのでパソコンの前で座っているだけでほぼ動かない。主人公は作家のおばさんの日常の微妙な変化にツッコミを入れながら、(欲しかったマテ茶を通販で買う山本山江に嫉妬したり、断捨離の取材を受けてから急に断捨離をし始める山本山江になんて影響を受けやすい人なんだと思ったり)なんとかその苦痛を和らげる努力をします。結局、ブツは主人公が見つけ、仕事は終わります。

    2バスのアナウンスの原稿作成の仕事

    よくバスのアナウンスで町の診療所とか薬局の宣伝が流れますよね。あれのアナウンスの内容を考える仕事です。
    えっ?それってライターがいるのって思いますが、この小説ではいます。

    例えば老舗の和菓子屋のアナウンス

    「あれ?こんなところにおおきなおまんじゅうが。中には赤・黄・緑の小さなおまんじゅう!なんて縁起がいいのかしら!慶事には、伝統和菓子梅風庵の蓬莱山をどうぞ!」

    さすが作家というか、興味をそそるアナウンスですね。けっっこう尺を取りそうですが。新規のアナウンスはけっこう来るらしく、このバスはひっきりなしにアナウンスが聞こえるらしいです。

    この世にたやすい仕事はないポイント

    ちょっとこの回だけファンタジーが入ります。頼れる先輩の江里口さんの疑惑の調査を、上司の風谷課長に頼まれてしまいます。金の着服とか産業スパイとかそんなリアルな調査ではありません。主人公は信頼できる先輩を裏で調べることに悩みます。その江里口先輩の疑惑が不可思議なのです。

    江里口さんがアナウンスの作成を止めた店が突然消えるんです

    急に世にも奇妙な物語。ためしに主人公がフラメンコ教室のアナウンスの内容をわざと消してみると、昨日まであったフラメンコ教室が消えている。慌てて入れ直すとフラメンコ教室は復活しているのです。

    その真相はいかに?詳しくは言いませんがファンタジーです。

    3 おかきの袋の話題を考える仕事

    よくお菓子の袋の裏に一口メモ的なコラムが書かれているのを見ませんか?主人公の3度目の転職先の仕事はそんなニッチな業務です。この一口メモ、勤め先の社長はかなり力を入れているようで、一口メモも他社と一線を画す内容になっています。

    例えば「世界の謎」というコラムではヴォイニッチ手稿という判読不可能の文字列について紹介していたり、国際ニュース豆知識などのかなりコアなネタがかかれています。

    前任者は婚活鬱で休職中、バスの原稿作りをしていた主人公はうってつけの人材ということで転職に成功したのでした。

    この世にたやすい仕事はないポイント

    今まで紹介した仕事の中で一番楽しそうな仕事です。実際読書会でこの本を紹介した中で、この仕事をやってみたいという声が多かったです。

    しかし、やはりたやすい仕事はない。この袋裏コラムのテーマは投票で決まるのですが、その投票には「パンチがない」とか「もうちょっとおもしろいのないですか?」という意見も書き込まれていて主人公は凹みます。
    もともと真面目で根を詰める性質の主人公は一日中袋裏のネタを考え、目に映るものすべてが袋裏のネタに見えてきます。ここらへんの描写はリアルで、作家である作者の実体験が込められているような気がしたのは邪推でしょうか?

    さらに主人公は新商品「ふじこさん おしょうゆ」の袋裏を担当することになるのですが、今までと違いマイルドテイストを要望されネタが思いつかず日に日にやつれていきます。主人公は知恵袋的な「ふじこさんおだやかアドバイス」を思いつきこれがヒット。ほっとしたのはいいのですが、おだやかアドバイスで山の遭難を取り上げ、それで助かった藤子さんというおばさんがなぜか袋裏の仕事にしゃしゃり出てくるようになり、主人公はストレスが溜まっていきます。

    結局、契約の更新をしないと判断した主人公。主人公は袋裏の仕事をやめます。

    4 店舗や民家をなどを訪ねて、ポスターを貼る仕事

    これは一番ありそうな仕事ですね。僕もこういう仕事、派遣のバイトでしたことがあります。
    主人公は交通安全、緑化、節水のポスターを民家や店舗に貼っていくことになります。

    この世にたやすい仕事はないポイント

    淡々とポスターを貼っていく主人公。しだいになんか担当した地域の様子がおかしいことに気がつきます。
    民家には自分が貼る前にポスターが貼られている。その内容がちょっと不気味なのです。

    「もう さびしくは ないんだよ」

    ポスターの下部には電話番号とSNSの連絡先が。
    フェイスブックのページを開いてみると交流会の様子が映っている。なんかおかしい。そう思った主人公がそれとなく町民に訊いてみると、カルト宗教の勧誘だと分かります。すでに「さびしくない」にのめり込む町民もいるようです。主人公がポスターを貼っていく場所にはなぜか「さびしくない」のポスターが。

    正義感の強い主人公は「さびしくない」のポスターを景品と引き換えに貼り替えることを町民に提案します。提案は成功しますが、勤め先のデザイン事務所に「孤独に死ね」の落書きがされます。

    主人公と雇い主は「さびしくない」の交流会に潜入することにします。そこで落書きの証拠を見つけた主人公はスマホで撮り、「さびしくない」の組織を刑事告発することに成功します。
    今回は仕事というより付随した事象への対応ですが、主人公はカルトと戦うことになったのです。

    5 大きな森の小屋での簡単な軽作業

    最後は大きな森の小屋での簡単な軽作業です。こんな求人がハローワークに上がってたら二度見しますね。
    しかし、文字通りの業務内容なのです。大林森林公園が職場なのですが、ここがとにかく広い。カートに乗らなければ移動できません。
    公園には小さな小屋があるのですが、主人公はそこでチケットにミシン目を入れる仕事と、地図に異変を書き込む業務を担当することになります。

    この世にたやすい仕事はないポイント

    ポイントはこの森林公園の広さと複雑さです。目印を置いていかないと迷いそうになります。
    主人公はその森を散策していると、奇妙な出来事に遭遇します。

    小屋のやかんに水を入れて火にかけようとするとコンロがすでにあたたかい。デスクに置いた手鏡がいつも裏を向けておくのに表を向いている。イチジクの木にフラッグやイサギレ(サッカー選手)のマフラーがついている。

    主人公は微妙な変化に不気味さを感じます。あげくの果てに前の管理人に「この森には大林原人の幽霊がいる」と忠告される始末・・・

    結局、その幽霊の正体は後日判明します。散々ネタバレしといてなんなのですがここは隠しておきましょう。

    最終的に主人公が見つけた仕事とは

    様々な職種を渡り歩いた主人公ですが、結局主人公は前職の仕事に戻る決断をします。前職とはどんな仕事だったのか、なぜその仕事に戻る気持ちになったのかは本書を読んで確認してみて下さい。

    時にクスリと笑いながら、ときに楽しく読みながら、気がつけばこの世にたやすい仕事はないという真理にたどりつく、そんな名作だと思います。興味を持ちましたら読んでみて下さい。

  • 自閉スペクトラム症

    前回、ADHDの本を紹介したので、今回は自閉スペクトラム症の本を紹介したいと思います。

    今回紹介する本は自閉スペクトラム症です。

    自閉スペクトラム症に関する本は山ほどあります。僕も自閉スペクトラムに関する本は2,3冊読んでいますが、この本が一番分かりやすく、客観的に書かれていたのでこの本を紹介しました。

    僕はADHDと自閉スペクトラムを併発していますが、自閉スペクトラムの説明がすごく難しい。コミニケーションに難がある障害なのは確かなんですが、それだけというわけでもないので一言で説明するのがすごく難しいのです。

    本書では自閉スペクトラムの診断基準から自閉スペクトラムの2つの特徴が説明されています。

    社会的コミュニケーションの障害

    一言で言えばコミュニケーション能力ですね。具体的には細かく3つの診断基準があり、すべて当てはまると自閉スペクトラムの疑いあり、となります。

    1 相互的関係の障害

    なんか難しい表現ですが、言ってみれば言葉のキャッチボールがちゃんとできないということです。質問の意図が理解できない、話し始めるのが苦手、関心をうまく共有できないなどの特徴があります。おしゃべりだから自閉スペクトラムでないとは言えません。話が一方通行だったり、突然話題を変えたりするおしゃべりな自閉スペクトラムもいます。

    2 非言語的コミュニケーションの障害

    相手の表情を読んだり、逆に表情豊かに話したりする能力に欠けている状態です。分かりやすく言うと空気が読めない人とも言えますね。いわゆるノンバーバルコミュニケーションに難がある人です。

    3 社会的スキルの貧しさ

    1、2に障害がある人だったら必然的に社会的スキルは貧しくなりますよね。言わば集団行動に難がある人です。

    以上が社会的コミュニケーションの障害ですが、けっこう当てはまると感じた人はいるんじゃないでしょうか。いわゆるコミュ障と言われる人=自閉スペクトラムかと言えばさにあらず。もう一つの特徴がないと自閉スペクトラム症とは言えません。

    限局された反復的行動

    ここを説明するのが難しい。限局された反復行動?ゲンキョクサレタハンプクテキコウドウ?なにかの必殺技ですか?

    特徴を挙げてみましょう。

    同じ行動パターンを繰り返す
    決まった行動や考えへのこだわり
    特定のものへのこだわり
    感覚の敏感さ、または鈍感さ

    こういう人いませんか?なにかの使命のように毎日同じ行動を繰り返す人。整理整頓の執着がすさまじく、物の位置をずらされるだけで怒る人。こだわりが強すぎる人。
    今の特徴+コミュニケーションに難がある人は自閉スペクラム症の可能性があります。

    こう説明すると分かりやすいかもしれません。自閉スペクトラムは予測不能性への適応に障害がある人だと。限局された反復行動というのはつまり、予測不能性への抵抗です。コミュニケーションなんて予測不能性の最たる物ですね。両者に共通するのは柔軟に対応する変化力。ここが弱いと自閉スペクトラム症になるのかもしれません。

    僕の場合

    僕の場合、学生時代はたしかに社会的コミュニケーションの障害があったと思います。まず自分から話しかけられない。人に接する場合、相手の働きかけに応じるのがやっとで、30歳をすぎるまで友人を自分から誘うことができていなかったです。それでも少しずつ社会性は改善されてきたと思います。コミュニケーションの基本戦略は合気道ですが。
    限局された反復的行動に関しても思い当たるふしはあります。僕は習慣オタクです。朝起きて寝るまで何やるか、だいたい決まっています。努力して習慣化しているのではなく、そうしないと気持ち悪いんですね。本に対するこだわりも強いです。感覚はかなり鈍感です。真夏でも言われるまでクーラーつけません。暑さ、寒さを感じにくいんですよね。倒れないのは体力があるだけです。

    自閉スペクトラム障害に理解の深まる名著

    自閉スペクトラムの特徴の説明に多くを割きましたが、実はこれで全体の2割ほどです。他にもASDが最近急増している理由や、ASDの脳と感覚統療法、回復例から教わることなど盛りだくさんの内容。これで1000円以下は安いと思います。
    興味を持った方は(できれば書店で)買っていただければ幸いです。