• 先日、彼女とチームラボバイオヴォルテックス京都に行ってきました。作品の中にいるような不思議な体験ができてよかったです。今回はチームラボヴォルテックス京都の体験をルポしたいと思います。

    チームラボバイオヴォルテックス京都とは?

    チームラボとは今世界を席巻するアート集団です。チームラボにはアーティストだけでなく、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家などがいるのが特徴で、アート空間を立体的に表現しています。

    百聞は一見に如かず。実際に作品の写真を見てみましょう。

    こういうのがいっぱいあるわけですよ。プロジェクションマッピングなどのテクノロジーを駆使して幻想的な空間を演出しているわけです。

    チームラボは世界的な評価も高く、ドバイやシンガポールなど世界中に常設展があるんです。そんなチームラボがJR京都駅に満を持して、2025年10月7日にオープンさせたのがチームラボバイオヴォルテックス京都です。国内では最大級。平均滞在時間は2時間~4時間です。

    国内最大級というだけあって作品数は膨大。なんと50以上の作品が展示されているんですよ。なのでそのすべてを紹介すると紙面がいくらあっても足りません。なので今回は特に印象に残った作品に絞って紹介しようと思います。

    1 Infinite Crystal World

    この作品のコンセプトをチームラボの公式ページから引用したいと思います。

    点描は、点の集合で絵画表現を行ったものだが、これは、光の点の集合で立体物を創っている。光の彫刻群が、無限に広がる。渦潮の中に人が入っても、渦の存在は維持されるように、点群が、空間的、時間的に離れていても、点群に連続性や構造が形成された時、一つの存在として認識されるのではないか、そして、人がその存在の中に入っても、存在が維持されるのではないか。その時、その存在は、人と一体となる彫刻となりえる。人々がスマートフォンから自ら選んだ世界を投げ込むことで立体物が生まれ、それらの群によってこの作品空間は創られていく。空間に出現した世界は互いに影響を受け、また、投げ込んだ場所や人々の存在にも影響を受ける。この作品は人々によって刻々と創られていきながら、永遠に変化していく。

    何言ってるかわかりますか?僕はわかりませんでした笑 これも百聞は一見に如かず。写真を見てみましょう。

    美しいですね。まるで光の雨に囲まれているような幻想的な体験を経験できます。また写真では分かりませんが、この作品は時間が立つと色が変わります。

    刻一刻と変化していく世界。美しい。写真でもキレイですが実際に体感するとすごいんですよ。ぜひ実際に足を運んで味わっていただきたい。

    2 質量も形もない彫刻

    ここも公式ホームページから抜粋します。

    浮遊する巨大な彫刻は、泡の海から生まれ、質量の概念を超越し、地面に沈むこともなく、天井まで上がりきることもなく、空間の中ほどを漂う。この浮遊する彫刻の存在の輪郭は曖昧で、千切れて小さくなったり、くっついて大きくなったりする。人がこの彫刻に身体ごと入り込んでも存在は維持され、人々によって壊されても、自ら修復する。しかし、塊は、自ら修復できる範囲を超えて破壊された時、修復が追いつかず崩れていく。そして、人々が押したり、横にのけようとしても、この彫刻を動かすことができないし、人々が風をあおげば、彫刻は散り散りになってしまう。人間の物理的な行為では、この彫刻を動かすことすらできない。(以下略)

    何を言ってるのでしょうか笑こちらも見た方が早い。

    巨大な泡です。実際には泡は動いて回転します。泡に触れると泡まみれになるのでレインコートを販売しています。奥の方まで行きたい方はレインコートを買うなり、事前に用意したほうがいいかと思います。質量も形もない彫刻とは泡のことだったんですね。

    3 グラフティネイチャーと鼓動する大地

    ここも公式ページの説明文を抜粋。

    《グラフィティネイチャー》は、人々が描いた生き物たちの1つの生態系。

    紙に生き物の絵を描く。すると、描いた絵が目の前に現れ動き出す。

    生き物たちは、他の生き物を食べたり、他の生き物に食べられたりしながら、共に1つの生態系をつくっている。

    あなたが描いて生まれた生き物は、他の生き物を食べると増えていく。逆に、他の生き物に食べられるといなくなる。そして、しばらく他の生き物を食べられなくてもいなくなる。(以下略)

    これはまだ分かりますね。でもこれも写真を見た方が分かりやすいかな。

    床に投影された絵が動くんですが、なんとこの絵自分で描けるんですよ。このフィールドの奥にお絵描きペースがあって、自分の描いた絵が動くところを観れる。なかなか楽しい仕掛けですね。写真の通り床は凸凹していて、歩くのもちょっとした運動になります。ハイヒールや踵の高い靴を履いていると、市販の靴をレンタルする羽目になるので気をつけてください。

    お絵描きスペースです。壁の絵は自分が描いた絵です。

    以上、チームラボバイオヴォルテックス京都の体験ルポでした。今回紹介した作品はほんの一部です。まだまだ楽しい作品はいっぱいありますよ。平均滞在時間は2~4時間とけっこう長く、飲食店がないので来場の際は気をつけて下さい。運動の森エリアでは軽い運動をするので上着はロッカーに入れて、動きやすい靴を履いて行く方が良さそうです。来場してぜひ五感型アートを楽しんでくださいね。

    チームラボバイオヴォルテックス京都

    営業時間 9:00 – 21:00


    * 最終入館は、19:30
    * 開館時間が変更になる場合がございます。

    Sketch Factory
    11:00 – 21:00

    休業日 

    02.03(火)
    02.10(火)
    03.11(水)


    * 休館日が変更になる場合がございます。

    住所 京都市南区東九条東岩本町21-5

    アクセス 「京都駅」 八条東口 から徒歩約7分

  • 本屋の仕事に興味を持つ人は多いです。小説やドラマの舞台にたびたび取り上げられますし、舞台裏を描いたノンフィクションの漫画も多いです。ただ、そんな書店の仕入れ担当者が取り上げられることは皆無でしょう。存在すら知らない人も多いのではないでしょうか。

    今回はそんな書店の仕入れ担当者がどんな仕事をするのか、聞かれてもいないのに答えてみたいと思います。

    仕入れと聞くとバイヤーみたいなイメージを持つかもしれませんが、仕入れ担当者が本の市場に行って本を買い付けるわけではありません。仕入れ作業は書店の後方支援を担う仕事です。仕入れ担当者の仕事は大きく分けて2つあります。本の入荷作業と返品作業です。いわば本の出入りをチェックし、運ぶのが仕入れ担当者の仕事と言えるでしょう。

    ざっと仕入れ担当者の一日を書いてみます。

    • 07:30~10:00  本の入荷作業(メイン)
    • 10:00~11:00  本の入荷作業(直仕入れ)
    • 11:00~12:00  雑誌の返品作業
    • 13:00~15:00  書籍の返品作業
    • 15:00~16:15  ごみ捨て等雑務

    作業は日によって前後しますし、こんな判で押したような一日を送れるのは稀ですが、だいたいのスケジュールを書くと上記のようになります。

    ざっと説明すると本の入荷作業は文字通り、本の入荷による運搬、検品、分類して担当者ごとに渡す、等の作業です。朝イチで大量の本が入荷してきます。日販やトーハンという取次会社から入荷してくる本で、物量は中型店舗でカゴ車4台分に相当します。さすがにこれだけの本をいちいち検品することは不可能なので、箱の数だけチェックして仕分けします。本にはコミック、自然科学、社会等、およそ10項目くらいの分類があるの入荷した本を各自、専用の台車に分けて置いていきます。この仕入れ作業、実は書店の売り場で行っています。つまり開店にまで仕入れ作業を終わらせないとまずいので、トラックの到着が遅いときなどはみんなピリピリしています。

    メインの入荷作業が無事終わると、無事開店。売り場担当者が売り場に出ていくのを横目に見ながら直商品の仕入れ業務を行います。直商品というのは、日販やトーハンなどの取次業者を通さず直接出版社から送られてくる商品のことで、これが意外と多いです。この直商品は一つずつ検品作業をしていきます。直商品には検品だけしたらいい商品と、ハンディで登録しなければいけない商品があります。ミスをすると店のデータが狂うので一番神経を使う作業です。

    それが終わると返品作業が待っています。返品作業には雑誌の返品と書籍の返品の2種類があります。雑誌の返品は雑誌を段ボールに梱包し、数を段ボールに記入します。書籍はハンディによる登録が必要です。

    それが終わるとごみ捨てなどの雑務を行います。他にも細々とした作業はありますし、日によって順番が前後するので一概には言えませんが、だいたいのスケジュールは上記の通り。仕入れ担当者は売り場担当者が本を売り場に品出しする、前後の作業を行う後方支援の仕事と言えます。僕がしんがり書店員と自称するのはそういう意味です。

    書店の仕入れ担当者にはいろいろな苦労があります。次はそこを説明しましょう。

    1 書店の仕事は朝がピーク

    書店の仕入れ担当者の朝は早いです。僕の場合は7時30分には出勤し、商品の仕分け作業を行っています。というのも遅くとも10時前には作業を終わらせ、店を開店させないといけないからで、そうなると必然的に出勤時間が早くなります。前述したように、商品の仕分け作業は売り場で行います。開店前に売り場にカゴ車や台車があるという大惨事はなんとしても避けなければいけません。だからトラックの搬入が遅れるときはピリピリします。実質、仕事のピークは午前中です。朝が一番忙しいです。

    2 力仕事である。

    書店の仕事はイメージと違い、肉体労働の側面が強いです。本の数は膨大なので1つ1つの箱や、カゴ車は重いです。それを運ばないといけないので力仕事といえます。書店員でヘルニアにかかる人は多いといいます。また倉庫の環境は劣悪です。夏は灼熱、冬は極寒。その環境に耐えるだけの体の強さも求められます。書店員は体力仕事なのです。

    3 ミスが無くてなんぼ

    書店の仕入れ担当者の仕事は減点法で評価されます。ミスが無く、つつがなく一日を送ってなんぼ。大量に直商品が入ってきて、膨大な検品があるときは絶望します。ADHDである僕が一番苦労したのはここかもしれません。最初はたびたびミスをしていましたが、ノートにミスを記録し対策を考えるようにしてからミスは減りました。今ではイレギュラーな案件がなければほとんどミスをしません。

    4 意外と人と関わる

    店舗の規模によりますが、書店の仕入れ担当者は1人で作業する場合が多いです。売り場に出るわけではありませんし、売り場担当者に比べると人と接する機会は少ないでしょう。しかし、裏方と言えどもそこはチームでやる仕事。それなりの対人折衝力は求められます。特に気を付けなければいけないのは報連相。店長や売り場担当者の指示を正確に理解し行動しなければいけません。また、こちらから入荷した商品の連絡をしないといけない場合もあります。意外とこれが難しい。ADHDであり、ASDである僕はこれにも苦労しました。ASDは口頭の指示を理解するのが苦手なのです。いろいろ試しましたが、とにかく理解するまで質問しまくるという原始的な方法で解決しました。職場が僕の特性に理解のある人が多かったので助かりました。

    以上、ざっくりと書店員の仕入れ担当者の仕事について、聞かれてもいないのに解説してみました。苦労も多いですがやりがいもある仕事です。やっぱり間接的に本と関われるのがいいですね。なにかのきっかけでこの仕事に携わる方は参考にしてみて下さい。

  • 回転率。それは薄利多売で成り立っているカフェにとっては大事な指標です。できるだけお客さんには早めに捌けてもらい、多くの客から注文を取り、利益を上げたい。これがカフェ側の本音でしょう。そんなカフェにとっては長時間滞在者は頭を悩ます存在です。店側は水をくんだり、周りをぐるぐる回ったりして、客側にサインを送る。マナーの分かる客なら、そこが切り上げ時と悟り、店を退出します。

    今回紹介するカフェは居心地が良すぎて、店の回転率を下げまくってしまう、魅惑を持ったカフェです。このカフェに行っても、その魔力に負けて半日居座るような迷惑客にはならないで欲しいと思います。

    1 六曜社

    市営バス京都河原町三条から2分。そこにひっそりと佇むカフェがあります。そこが六曜社です。一階は満席だったので今回は地下店に行きました。階段を降りるとそこは別世界。豪華客船を思わせるシックでゴージャスな空間が待っています。

    この異世界なような空間で頂くコーヒーは絶品。今回は六曜社名物のドーナツと合わせていただきました。あまりにも居心地がいいので回転率を下げることは必至。お客の出入りの激しい人気店なのでくれぐれも迷惑客にはならないで下さい。

    • 住所:京都府京都市中京区河原町三条下ル大黒町40
    • アクセス:三条京阪駅より徒歩約5分
    • 営業時間:08:30 – 22:30 L.O. 22:00
    • 定休日:水

    2 茂庵

    京大のすぐ隣にある標高100mのこじんまりとした山、吉田山。その山頂には実はカフェがあります。

    茶室茂庵。小さな山小屋を改装したカフェです。山の中にひっそりと佇むカフェは、まさに究極の隠れ家。ちょっとしたハイキングをした後に寛げる憩いの場です。

    中に入ると木の天井と床に囲まれる和の空間が。カウンター席の窓からは京都市の街が一望できます。窓から覗く山の風景とともに食べるスイーツは格別。その居心地の良さに店の回転率は下がる一方。僕も彼女と雑談しながら何時間も居座り続けてしまいました。

    惜しむらくはその居心地のよさのせいか、けっこう人の入りが多いことでしょうか。魅力のあるカフェの宿命でもあります。茂庵は予約もサイトから予約も可能なので不安なら予約をおススメします。またレンタルスぺース一日貸席のサービスもあり、その場合は店の回転率を下げることなど気にせずどっしり居座ることができます。値段は高いですが。

    • 住所:京都府京都市左京区吉田神楽岡町8 吉田山山頂
    • アクセス:「浄土寺バス停」または「銀閣寺道バス停」 下車、徒歩15分
    • 営業時間:12:00~17:00
    • 定休日:月・火

    3 agnes.B CAFE 祇󠄀園店

    京都の八坂神社の手前にある、花見小路の通りの裏路地にひっそりと佇むカフェがあります。そこがagnes.B CAFE祇󠄀園店です。

    隠れ家のような立地のせいか、祇󠄀園の裏路地という敷居の高いイメージのせいか、お客が行列を作って待ってるということがあまりないです。

    そこは居心地を測る上で重要なポイントです。しかも、祇󠄀園の一等地にあるのに値段はそこまで高くない。

    中に入るとそこには和モダンな空間が待っています。

    カフェメニューも充実しています。広島・瀬戸田の人気コーヒーロースターである「Overview Coffee」のコーヒーや、アルザスのレストランにて修行を積み、現在は京都・神宮丸太町の名店「cenci(チェンチ)」でスーシェフを務める渥美彰人氏による料理や、京都・八幡のベーカリーカフェ「Camphora(カンフォーラ)」を主宰するパティシエ丸橋理人氏によるオリジナルのデザートが楽しめます。

    あまりの居心地の良さに気づけば3時間以上居座っていました。このカフェのヘビーユーザーになりそうです。

    • 住所:京都府京都市東山区祇園町南側570番地128
    • アクセス:京阪本線祇園四条駅 徒歩5分
    • 営業時間 10:00~18:00 ※モーニング:10:00~12:00 (LO. 11:30)
    • 定休日: 不定休

    以上、店の回転率を下げまくってしまう居心地のいい京都のカフェを厳選してお伝えしました。みなさんもお越しのさいは長居しまくって店の回転率を下げずにほどほどに楽しんで下さいね。

  • 僕には誰にも相手にはされない自慢が一つある。それはどんな映画であっても途中退席したことがないことだ。たとえどんなにひどい映画であっても、劇中の登場人物にツッコミを入れながら終わりまで観る。たとえどんなに怖い映画であっても、歯を食いしばりながら最後まで映画と対峙する。たとえどんなに眠気を誘う映画であっても、睡魔と戦いながらエンドロールまで見届ける。一本の映画には莫大な金と人員と情熱が注ぎ込まれている。だから僕は映画館の照明が点くまで途中退席をしたことがなかった。

    サブスタンスを観るまでは。

    始めに言っておきたいが、サブスタンスはひどい映画ではない。スタイリッシュな映像、ルッキズムを切り取ったテーマ性、女優たちの迫真の演技、カンヌ映画祭の脚本賞も取った上質なホラー映画である。

    だから途中退席、というよりも逃亡と言った方が正しい。僕はサブスタンスから逃げたのだ。

    サブスタンスが怖くて、映画の終わりまで観られなかった、と言っていいがそれだけでは僕の感情を説明できない。単純に恐怖を感じて最後までみられなかったわけではない。僕はオタクに近いくらいのホラー狂である。サブスタンスよりグロテスクで怖い映画はいくらでもある。悪魔のいけにえも、ハンニバルも、リングも呪怨も怖かったけど最後まで観れた。人体が醜くなっていくボディーホラーの要素ももちろんあるが、僕が感じた恐怖はそういう物理的恐怖ではなかった。

    最後まで正視できなかった、というのが僕の中で一番しっくりくる言葉だ。サブスタンスはルッキズムという社会の残酷なルールを抉りだした映画だ。内容をざっくりと説明しよう。

    主人公は50歳の誕生日を迎えた女優、エリザベス。ハリウッド・オブ・フェームに名前が刻まれるほどの女優だったが、それも過去の話。今はエアロビクス番組の司会を細々とやっていたが、それも年齢を理由に降板させられる。エリザベスは精神的ショックで交通事故を起こす。あまりにも自分が哀れで病院で泣き出すエリザベス。そこに若い医者がサブスタンスという美容医療を紹介する。サブスタンスは、薬物療法であり、薬を注射すると体の細胞が脱皮し若い体と入れ替わる。サブスタンスにはルールがあり、古い体と若い体は一週間ごとに入れ替わらなけばならない。始めはサブスタンスを拒否したエリザベスだったが、仕事が減り、周囲から見向きされなくなっていく現実に、エリザベスはサブスタンスを始めることに・・・

    と説明するとサブスタンスは世にも奇妙な物語のようだ。話の流れから、エリザベスはルールを破り崩壊していくんだろうな、という展開もある程度予測できる。出だしのときは最後まで観れそうだったし、クライマックスで逃げ出すことは想像できなかった。

    ここからはネタバレです

    ただ、その崩壊の過程が想像を遥かに上回る壊れっぷりだったのだ。

    若い体であるスーは、自らの美しさを武器にエアロビスク番組の司会に抜擢され人気を博していく。押しも押される人気に有頂天になり、夜はイケメンと遊び放題。その反動で元の体であるエリザベスに戻ったときはひどく惨めな気分になる。エリザベスの若さの養分を注射で吸う方法を発見したスーは7日間ルールを破り、スーである時間を引き延ばす。養分を吸われた方のエリザベスはどんどん醜い姿になっていく。それでも若いスーである快感を忘れられないスーはどんどんエリザベスの体から養分を吸い取っていく。エリザベスは自分から若さを奪い取っていくスーを憎むようになり、エリザベスとスーの乖離は広がっていく。

    そして決定的な出来事が。スーは日本で言うところの紅白歌合戦のような国民的人気番組の司会に抜擢され幸せの絶頂に。一方、エリザベスに戻った時の姿は見るに堪えないものになっていた。エリザベスは「もうここで終わりにしよう」と思い立ち、スーの体を殺そうとするが、憧れの番組の司会という栄光を捨てることができず、殺すのを躊躇する。その間に目覚めたスーがエリザベスに激怒し、逆にエリザベスを殺してしまう。

    養分を失ったスーの体は少しずつ崩壊していく。しかし、憧れの番組の日は刻一刻と近づいていく。焦ったスーは禁じられていた2回目の注射を自分に打つ。そうするとスーは見るもおぞましいクリーチャー、エリザベスーに変貌する。その姿は正直、とても言語化できない。興味のある方はアマゾンプライムで確認して欲しい。恐ろしい化け物になったエリザベスーはなぜかその姿で国民的人気番組のあるTV局に向かってしまう。

    そこで僕は耐えられなくなって映画館を途中退席してしまった。化け物の姿になったエリザベスーが人気番組に出ようとする行動が理解できないし、この後の大惨事を想像して正視できなかったのだ。

    忌まわしきトラウマを僕に植え付けたサブスタンスと再会したのは1年後、アマゾンプライムだった。トラウマを克服する方法はトラウマと向き合うことだ、という言葉を思い出し、僕は勇気を出してクライマックスのシーンを見ることにした。

    クライマックスのシーンは想像の斜め上を行くものだった。クリーチャーとしてエリザベスのお面をつけてテレビ局の裏口に入るエリザベスー。ここでADはなぜかエリザベスーをそのまま通してしまう。違和感感じなかったのか?

    エリザベスのお面をつけたまま国民的人気番組の壇上に立つエリザベススー。そこでかかる2001年宇宙の旅のBGM。エリザベスのお面を外し、怪物の顔を披露するエリザベスー。ぽかんとした顔でエリザベスーを見る観客。そこであのダダーン、という有名な音。僕は思わず笑ってしまった。

    ようやく事態を理解した観客たちは悲鳴をあげる。そこからは阿鼻叫喚。逃げ惑う女性、「怪物だ!」と叫びエリザベスーを鉄パイプで殴る男性。血を流したエリザベスーは観客に血の雨を浴びせる。

    エリザベスーはテレビ局を抜け出しす。血まみれになったエリザベスーは崩壊し、エリザベスの顔だけの生命体になった。最後エリザベスに戻ったエリザベスーはハリウッド・オブ・フェームに戻りそこで死に絶える。

    僕は笑っていいのか、怖がった方がいいのか、泣いた方がいいのかよく分からない摩訶不思議な感情になった。なんか思ってたのと違う。思ったより怖くなくて良かったけど。僕はサブスタンスから様々な教訓を受け取った。映画は最後まで観よう。

  • 先日、彼女の実家に行った。気さくな方ばかりで和やかな会合になった。

    そして彼女の部屋に行って卒業アルバムを見してもらった。彼女の卒業アルバムを見してもらいながら、僕は秘かに前例のない緊張を覚えていた。卒業アルバムを見せてもらったということは、いずれ卒業アルバムを彼女に開示する必要があるということだ。

    卒業アルバム。

    充実した青春を送っていた人にとってはこれは懐かしき記憶のミュージアムだ。それは愛でる対象であり、頁を捲ることになんら抵抗がない。しかし、充実と縁の無い青春時代を過ごした人間にとってはそれは開けてはいけないパンドラの箱だ。開けたら最後、封印された忌まわしき黒歴史の数々が魑魅魍魎の如く僕を襲い掛かってくるに違いない。

    僕は彼女と2人で卒業アルバムを捲る準備として、1人で卒業アルバムを捲ることにした。トラウマを避けるのではなく少しずつトラウマと対峙する。暴露療法である。

    僕は卒業アルバムに向き合いながら一つの可能性に懸けた。脳の編集能力は偉大だ。僕は学生時代の記憶がほとんどない。脳は自分に都合の悪い情報は削除するのだ。僕の走馬灯には学生時代の思い出がすっぽり抜け落ちているに違いない。つまり、僕が卒業アルバムを見ても参照する記憶がないので、なんら精神的損傷を感じないかもしれないのだ。

    僕は卒業アルバムを開いた。一発目から僕の写真が出てきた。僕は餅つきをしていた。着ているTシャツには車に曳かれたタイヤ痕のデザイン。そして大きな太文字のローマ字。CRASH。

    僕の脳はその瞬間、封印してきた記憶を蘇らせた。書きなぐったポエム、初恋ララバイをおかんに見られた中学1年生、エロ漫画を立ち読みしているところをダンス部の女子に見られた高校2年生、自分はスパイのエージェントだという妄想に取りつかれ謎の暗号を自作した中学2年生、ペアが見つからずたまたま来ていたひきこもりのA君とペアを組んだ発表会、女子との会話が「のりかして」だけだった高校3年生、次々と脳裏に黒歴史がフラッシュバックしてくる。

    僕はゆっくりとアルバムを閉じた。今の僕には刺激が強すぎたようだ。アルバムは紛失したことにしようか。財務省のように僕の映っているところだけ黒字で潰してもいいかもしれない。

    世の中には向き合わなくていい過去がある。そのことを痛感した一日だった。

  • 遅くなりました。あけましておめでとうございます。

    新年早々突然ですが、今年はフルモデルチェンジしようと思います!

    なにをフルモデルチェンジするのか?ブログネタです。

    具体的に言うと以下の通りです。

    タイトル

    しんがり書店員のこの本どうですか?→しんがり書店員の毎日が背水の陣

    ブログの内容

    本の紹介→本、映画、旅などのオールジャンル

    文体

    ですます調→模索中

    なぜ、新年早々フルモデルチェンジするのか?それはズバリ追い込まれてるからです!!

    日に日に減っていくアクセス数、なくなっていくブログネタ、すり減っていくモチベーション・・・なんとなくこのまま続けていっても自然消滅する臭いが、自分でもプンプンしているわけですよ。

    新年早々、迷いました。過去の歴史上、フルモデルチェンジして失敗した例は数多あります。新型車種にして販売が低迷する車、急に毒舌キャラに豹変して迷走するアイドル、フォームを刷新して成績が急降下したプロゴルファー、企画が二転三転し打ち切りになったテレビ番組、イメチェンで坊主にして引かれた大学生、フルモデルチェンジすると言い残し連絡が取れなくなった友人・・・・フルモデルチェンジには死屍累々の山がある。

    しかし、そのリスクを冒してもフルモデルチェンジする必要があると判断しました。そもそも失うものがほとんどない。たとえアクセス数がゼロになっても変わらなければいけない。背水の陣です。

    次週からフルモデルチェンジしようと思います。しんがり書店員の迷走をご覧あれ。

  • 皆さん人気ラーメン店の行列に並んでいるときどうしてますか?SNS観てる?動画観てる?

    それはそれでいいのですがたまには読書なんていかがでしょうか?今回は人気ラーメン店の待ち時間に合う小説をセレクトしてみました。

    こってり豚骨ラーメンなら

    ヤギより上猿より下 平山夢明

    こってり系のラーメンなら、やっぱりこってりした平山夢明の小説なんていかがでしょう?こってり系ホラーを量産するカルト作家の夢明さんにしては比較的爽やかな読後感なので胃もたれしません。短編集なので行列の待ち時間にはぴったり。こってりしたホラー?を読んで、こってりしたラーメンを食べましょう。

    さっぱり系の塩ラーメンなら

    ボッコちゃん 星新一

    爽やかなライトな塩ラーメンには、ちょっぴりシュールでオシャレな星新一のショートショートがぴったり。後味の毒気も、塩ラーメンには合いますね。5分で1作読めるので待ち時間にはぴったりです。

    激辛担々麺なら

    傾いた世界

    激辛担々麺には、激辛な毒気たっぷりの筒井康隆の短編集はどうでしょうか?平山夢明を唸らせる、猛毒小説に激辛担々麺の辛さが薄れること間違いなし。濃密な10分間をご堪能ください。

    二朗系ラーメンなら

    百年の孤独

    ボリューミーな二朗系ラーメンにはボリューミーな百年の孤独を。少女が空を飛び、赤ん坊に豚のしっぽが生える世界観に待ち時間を忘れることうけあい。小説に夢中のあなたは、ラーメンのことも忘れて小説を読み耽ることでしょう。奔流する活字の濁流に呑み込まれてください。

    いかがでしたでしょうか?ラーメンの待ち時間という虚無の時間にぴったりの小説をセレクトしてみました。ラーメンの行列は小説を読んで、頭もお腹もいっぱいにしてください。

  • 読めば山に登りたくなる!イヤミスの女王が描く山小説

    熊の大量出没ニュースが世間を騒がせてから、あまり山に登れていません。登りたくて悶々としてきたので、ひさしぶりに山女日記を読み返してみました。

    作者は湊かなえです。最初、書店で発見したときは湊かなえと山がつながらず、何かの間違いだと思いました。湊かなえと言えば人間のダークサイドを抉るイヤミスというジャンルを定着させたイヤミスの女王です。牛乳パックに血を混入させたり、人間を標本にしたり、人が死ぬ瞬間を見るために老人ホームに行ったり、そういう人物を描いてきた人です。だから、その湊かなえさんがご来光を見て感動したり、山頂の景色を眺めながらコーヒーを飲んだりする絵が思い浮かびませんでした。どちらかと言うとネットの中傷記事見てネタ探ししてそうです。

    ところが実は湊かなえさん、大の山好きなんだそうです。湊さんはサイクリング同好会の仲間たちと山に登っていて社会人になっても登っていたのだとか。そもそもこの山女日記自体が登山から遠ざかっていた湊かなえさんが山を登る口実を作るために書いたのだそう。山頂でコーヒーを飲むのも好きだそうです。失礼しました。

    しかし、油断はできません。山が舞台と言ってもそこはイヤミスの女王。なにかしら嫌な気分にさせるトリックが山女日記にも潜んでいるのかもしれません。コーヒーに潜んだ毒物、テントの中での罵り合い、ニヤリと笑って切られるワイヤー・・・。そんな描写に警戒して山女日記を読んだのですが、びっくりしました。まったく嫌な気分になる要素がありません。それどころか、遭難とか絶壁とか、孤高のクライマーとか、山岳小説によくある要素もないのです。描かれるのは我々がよく知る登山。鬱屈とした悩みを抱える主人公たちが、山を登っていくうちに新しい一歩を踏み出す。え?あなたは湊かなえさんですか?と僕は本に聞いてしまいました。

    題材にした山は「登山経験の無い人がここなら行けそうかなと思える山にした。」と本人がおっしゃっていますが、どれも標高2000m超えの山ばかり。湊さんの登山レベルの高さが窺えます。「ここなら大丈夫だよ!」が全然大丈夫じゃない、登山経験者あるあるですね。

    山女日記と残照の頂を通読しましたが、やっぱり登山はいいな、小説はいいな、と再確認できました。短編集なので一つ一つはすぐに読めます。なので入門としてもオススメです。

    ぐるぐる止まらない悩み思考が山を登ることでリセットされる。登山経験者なら一回はある現象も書かれています。個人的に良かったのは後立山連峰の回でした。ご主人を亡くした妻が、主人が行きたいと言っていた五竜岳を登るという話ですが、奥さんは五竜岳を登ることで夫への後悔の念を浄化していく過程が丁寧に描かれていて、目頭が熱くなりました。

    ひさしぶりに山女日記を読んで、山に登りたくなりました。登山経験者も登山経験の無い人も楽しめる小説だと思います。初回で2000m超えの山はオススメできませんが笑。

  • 行動科学者が考案した自分を変える画期的方法

    もうすぐ新年ですね。いやあ、あっと言う間ですね。今年もあとわずか。

    毎年思ってしまうのが、あれ?こんなはずじゃなかったといううっすらした後悔。意気揚々と掲げた目標はすっかり忘れて気づけば去年と同じことをしてしまう。僕が新年に掲げた目標を挙げると

    • 料理に挑戦
    • ブログを毎週続ける
    • 小説を2本完成させる
    • 毎月 200km走る
    • 走らない日に筋トレする

    とまあ、これだけあったのですが辛うじて達成できた目標はブログのみ。最初のみなぎるやる気は2月頃には下降を始め、なんだか目標はうやむやになり、気づけば12月ということをここ5年繰り返しています。

    それでは行けないと思い買ったのがずばりそのまま、自分を変える方法です。著者はケイティ・ミルクマン。ペンシルベニア大学の行動科学者です。この本の特徴は行動科学者で元エンジニアの著者があくまでシステマチックに合理的に自分を変える方法を提案していること。よくある精神論一辺倒の自己啓発書とは一線を画すわけです。

    ここで提唱されている方法論は全部で7つあります。7つ全部紹介したいところですが紙面に限りがあるので「衝動性を利用する」という方法に絞って紹介しましょう。

    みなさん、やめたいけどついついやってしまうことと、やりたいけどなかなか続かないことありませんか?僕の場合はスナック菓子とコーヒーの過剰摂取、できないのは筋トレや料理ですかね。人間とは心の弱い生き物です。誘惑には負け、努力は続かない。著者いわく、人は未来の自分の意志の強さに期待しすぎるということです。そこで著者は提案します。やめたいけどやってしまうこと、やりたいけど続かないこと、この2つをくっつけてしまおう、と。

    つまり苦しいだけの努力に、快楽を追加するということです。よくある自分へのご褒美と違うのはご褒美をあげるのは努力をしている最中だということ。たとえば、著者はジムが続かないという悩みを解決するために、ジムでのワークアウト中だけ小説のオーディオブックを聴いていいというルールを適用したのだとか。それでジムが続くようになったそうです。

    さらにここだけだと単なる著者の経験論ですが、著者は行動科学者。ここで実験をします。ペンシルベニア大学の大学生に有志を募り、A群とB群に分けジムの運動量を計測しました。A群の大学生にはipadを貸し出し、ジムのワークアウト中にだけオーデイオブックを聴けるというルールを作りました。一方のB群は特になにもせずにジムに行ってもらいました。結果、A群の参加者はB群より55%運動量が多いというデータが出ました。さらにA群の学生たちは7週間、大幅に運動量が増加したそうです。

    この方法はいろいろ応用が利きそうです。僕も小説を書くときはカフェに行っていいとか、長い距離走るときは旅ランをするなど、努力が快感になる工夫をしていこうと思います。

    他にもこの本には新年や区切りの時にやる気がみなぎるフレッシュ効果とか、7つの実践的アドバイスが書かれています。新年前に一度この本を読んでみてはいかがでしょうか?

  • 考えるな!感じろ!シュールレアリスムの極北

    世の中には難解な本があります。読むだけで身悶えするような、字でできた断崖絶壁。その山に好んで挑戦する好事家たちがいます。今日はそんなクライマーたちが好んで読む作家、安倍公房の最後の小説、カンガルーノートを紹介しようと思います。

    僕が思うに難解さには二種類あります。一つは左脳型。数学や哲学書など理論が複雑すぎて難解、というやつです。

    もう一つは右脳型。ピカソやダリの絵に代表される、シュールすぎて意味が分からないという難解さです。

    基本的に文学には左脳型の難解な本が多いです。やはり文字を読む行為は左脳を刺激するのでしょう。しかし、文学の世界はごく稀に右脳型の難解な小説を書く天才が現れます。

    古くは主人公が毒虫に変わるという衝撃の書き出しで始まる変身を書いたカフカ。最近では村上春樹がこのタイプにあたるでしょう。

    そして今回紹介する作家、安倍公房も右脳型の難解小説を書く天才じゃないかと思います。

    なにが難解なのか?まずカンガルーノートのあらすじを読んでみてください。

    ある朝突然、<かいわれ大根>が脛に自生していた男。訪れた医院で、麻酔を打たれ意識を失くした彼は、目覚めるとベットに括り付けられていた。硫黄温泉行きを医者から宣告された彼を載せ、生命維持装置付きのベットは、滑らかに動き出した・・・。坑道から運河へ、賽の河原から共同病室へー果てなき冥府巡りの末に彼が辿り着いた先とは?

    いかがでしょうか?意味が分かりますか?これは本のあらすじを一言一句書き写したものです。おそらくこのあらすじを見た人の反応は2つに分かれるのでないかと思います。

    意味分からん。無理!という人と、意味分からん、面白そう!という人。

    僕は後者でした。なのでカンガルーノートを買い読みました。

    読んだ印象は地獄のイッツアスモールワールド。イッツアスモールワールドというアトラクションはご存知ですか?ディズニーランドにあるお伽の国をゴンドラでゆっくり回るアトラクションです。

    脛にかいわれ大根が生えた主人公は、自走するベッドに乗って、死後の世界を思わせる摩訶不思議な世界を巡ります。

    地獄巡りと言いましたが、その描写はコミカルで笑ってしまいます。三途の川を思わせる賽の河原は観光地化され小鬼のガイドが引率してくれます。脛に生えたかわいわれ大根を使った、サンドイッチやみそ汁などを食べさせられたりと、M本H志氏が真っ青になるようなシュールな笑いが小説全編に漂っています。

    どこまでもシュールな作品ですが、その背後にはどことなく死の匂いが。それもそのはずこの小説は安部公房が死の2年前に刊行された遺作なのです。彼は忍び寄る死にシュールな笑いによって立ち向かったのかもしれません。彼なりの死後の世界の考察である気もします。

    とまあ、もっともらしい解説をつけましたが、真実は闇の中です。この難解な小説を考察してみるもよし、ただ笑い飛ばしてもよし、いろんな解釈のできる名作です。体力に余裕のある日に読んでみて下さい。