• ゴッホ展に行ってきました

    2週間前に彼女と神戸市立博物館にゴッホ展に行って来ました。博物館は朝だというのに人だかり。ゴッホの人気ぶりが覗えました。今回のゴッホ展では夜のカフェテラスが20年ぶりに来日するということで話題になりました。

    僕は5年前に夜のカフェテラスを鑑賞した気がするのですがあれはなんだったのでしょうか?20年前の記憶を5年前と錯覚したのか?まったく別の作品を夜のカフェテラスと思い込んだのか?謎です。

    さて。今回のゴッホ展はかなり見応えがありました。今回分かったのはゴッホの筆の多彩さ。ゴッホといえば、「ひまわり」や「夜のカフェテラス」「星月夜」などの色が鮮やかで、波打っている絵の印象がありますが、今回の展示ではそれとは別の画風の作品が多くありました。
    まるで印象派と見まがう風景画。暗い色調の肖像画。浦沢直樹の漫画のような風景画もありました。
    ゴッホが代表作にたどり着くまでの筆跡が、物語のように並べられて良かったです。
    そして「夜のカフェテラス」。そこはもちろん人だかり。青と黄色の対比が綺麗で、実物よりも美しいのではないかと思ってしまいます。こんなカフェテラスがあったら行ってみたいですね。

    さて。今回紹介したいのは「知覚力を磨く」という本。
    絵画鑑賞を単なる娯楽ではなく、観察力を磨く手段として捉えたビジネス書です。
    実は若者の間で美術館離れが進んでいるそう。国立アートリサーチセンターの調査によると、15歳~25歳の若者の51・7%が美術館には全く行かないそうです。コスパやタイパを重視する若者には美術鑑賞は無駄なことだと思われているのでしょうか?
    だとすればこの本を読んで欲しいです。この本では絵画鑑賞は単なる趣味ではなく、観察力や発想力を磨くツールとして使えることを、数々のエビデンスを通して伝えてくれます。
    たった3時間の絵画鑑賞で、医学生たちの診断力が13%向上したこと。ノーベル賞受賞者の9割が美術鑑賞を趣味にしていること。イェール大学やハーバード大学などの名だたる大学が絵画鑑賞を必須科目にしたこと。

    ではただなんとなく鑑賞すればいいのでしょうか。著者によるとそうではなく、「観る」ことにもコツや方法があるそうです。そのコツは4つに分類されます。

    1 全体図を観る

    2 組織的に観る

    3 周縁部を観る

    4 関連づけて観る

    どういうことでしょうか?これだけ見てもなんのこっちゃですね。1つずつ見てみましょう。まず全体図を観るということですが、美術の訓練を受けていない人は人物や物の細部を観るのに囚われ全体をまんべんなく観ることをしていないそうです。たしかに僕も今まで絵の気になる部分だけみてまんべんなくは観ていない気がしました。一方、訓練を受けている人は全体をまんべんなく観るそうです。

    組織的に観るというのは、絵を複数のパートに分け、一つずつの詳細を観察し、さらにパートごとの関係がどう機能しているかを観察するということです。難しい・・・。4つのコツで一番難しく感じるところでした。

    周縁部を観るというのは、絵の隅や周辺の本来スルーする部分にもちゃんと眼を向けるということです。たしかに空白の部分ってさらっと流して見がちですよね。しかし、その空白が絵の構図上大事だったりするんですよね。

    最後の関連付けてみるということですが、これは絵を鑑賞している時点である程度脳内で誰でもやっていることだそうです。絵には説明がありません。どの時代のもので、どこの国のどの場所なのか、明確には記されていないのがほとんです。その空白を脳が自然に埋めようとするんですね。ここはあの場所に似ているとか、あの絵と描かれている空気感が似ているとか。僕はこの本を読んでから絵画を観るときは絵を最初に観て、解説は後から観るようにしています。たいがい観察して導いた推論は外れるんですが。

    と、ここまで述べてきましたが、ゴッホ展に行ったときはこの4つのコツをすっかり忘れて、ふつうに絵画を鑑賞してしまいました。いやあ、キレイやなあっと、凡庸な感想で終始終わっていました。まあ、それでも楽しめるのが美術鑑賞のいいところですが。次はちゃんと4つのコツを頭に入れて鑑賞しようと思います。

  • 万博に行ってきました!

    先日、母と一緒に万博へ行ってきました。弟と3人で行く予定でしたが、弟は予定ができ2人きりの日帰り旅行です。

    万博の人はすごい、と聞いて覚悟してたのですが午前中は許容範囲の人だかり。とにかく列の少ないパビリオンを見つけたら入る、という雑な戦略で11個のパビリオンに入ることができました。

    まわった感想は「万博というよりどっちかというと伝統工芸フェス」でした。

    東南アジアやアフリカ、南米のパビリオンを中心にまわったのですが、展示物は木彫りの人形や陶器などの伝統工芸が目立ちました。たまたまそういうパビリオンに行き当たったのだと思いますが。

    「どこも似たようなもんね。」母はパビリオンを一瞥して、辛辣な意見を投げかけます。このまま消化不良で終わるのか?万博の関係者でもないのに妙に緊張してきました。

    流れが変わったのはインドネシアのパビリオンに行ってからでした。ヨヤクナシデハイレルヨ、とカタコトで歌いながら踊るインドネシアのスタッフ。そこに一縷の望みをかけ入りました。

    パビリオンの中に入ると突然、ジャングルが現れました。密林をそのまま再現する展示に母は言いました。

    「やっと万博に来た!」本音大爆発です。

    そこから目が輝きだした母と一緒にパソナのパビリオンに行きました。iPS細胞の心臓や、空飛ぶ救急室の展示などを観て回りました。

    最終的に「まあ、来て良かった」と言った母に一安心。まあが気になりますが。70点と行ったところでしょうか。

    今回の万博で思ったのが、やっぱり未来を感じさせる展示をもっと見たかったかなと思いました。回ったパビリオンが伝統押しのパビリオンばかりだった、というのがありますが、やはり万博来たからには未来を感じたかったというのが本音です。

    そこで今回は未来を感じる世界のSF小説を紹介したいと思います。ある意味SFって脳内万博だと思うんですよね。SFが盛んな国は科学技術が発達しているとも言われています。世界のSFを読み比べてみましょう。

    アメリカ

    まずは真打登場。アメリカです。アメリカのSF小説生産量は群を抜いています。今回のブログのためにSF作家のウィキペデイアを調べたんですが、有名どころのSF作家はほぼアメリカかイギリス出身でした。それだけSFと科学が生活に根付いているんですね。

    そんななかアメリカ代表として紹介したいのがテッド・チャンの「あなたの人生の物語」。作家が多すぎるので悩みましたが、真摯に科学技術を扱っているところと、一番好きなSF作家なので選ばさせてもらいました。

    テッド・チャンの小説の魅力は科学技術のアイデアと人間ドラマが融合しているところです。SF小説あるあるですが、アイデアと未来描写は凄くても人間の描写がペラペラということがよくあります。作家の理系率が高いせいか、人間のエモーションを描くのが苦手なんですかね。テッド・チャンの小説は人物がアイデアを説明する道具になっていない感じがします。真摯な人間への眼差しを感じます。短編の中でのおススメは表題作の「あなたの人生の物語」。未来と過去と今を同時に感じられる宇宙人の言語を覚えたことで、未来が見えるようになった言語学者の話です。科学的描写による知的興奮と、運命を受け入れる母親の感動を同時に感じられる稀有な作品。科学描写が難しく感じられるかもしれませんが是非読んでもらいたい傑作です。

    中国

    続いて三体で一躍注目されるようになった中国SF。おススメは三体と言いたいところですが、なんせ長い。全部読むには分厚いハードカバーの本が5冊分あるので、気軽に薦めずらいです。

    なので中国代表として「折りたたみ北京」を紹介したいと思います。内容は読んで字の如く、大都市北京を折りたたむ話です。比喩ではありません。本当に街を折りたたむのです。

    なんという大風呂敷。リアルティなんていうみみっちいこと言わないのが中国SFの魅力なのではないでしょうか。ワンアイデアの出オチ小説かと思いきや、しっかりとなぜ北京を折りたたむ必要があったのかという設定があり、格差社会の風刺あり、人間ドラマありでしっかり読ませてくれます。

     

    チェコ

    最後に紹介したいのはチェコ。失礼ながら「えっ、チェコってSFあるの?」と思ってました。実はチェコはSFが盛んらしいです。なんせチェコSF短編集なるものが日本にもあるくらいですから。父はチェコに行ったことがあるらしいのですが、「街の美しさにびっくりした。」と言ってました。文化レベルの高い国のようです。

    紹介したいのはチェコSF短編集。チェコのSF短編ばかり集めたコアな本です。

    読んでみて思ったのは非常に多彩であること。ハードSFもあれば、ユーモア短編あり、ちょっとホラーなSFもありで読み手を飽きさせません。チェコ恐るべし。どの作品にも通底しているのは社会風刺の要素があること。チェコの歴史を紐解けば、もともと民主主義だった国がソ連に侵略されて共産主義になったという複雑な背景があります。共産圏で社会批判は命がけ。SFを隠れ蓑にして社会風刺をするという人が多かったようです。SFは絵空事、というイメージを逆手にとったわけですね。だから旧共産圏ではSFが盛んらしいです。おすすめの短編は「オーストリアの税関」です。列車に曳かれた男がサイボーグとして復活したものの、税関に引っかかり国から出れないというユーモア短編です。

    今回世界のSFを読み比べて発見がいろいろありました。なんだかんだ言ってSFは欧米が中心であること。中国のSFが今盛んであること。同じSFでもお国柄や文化が出てくること。科学技術が発達していない国ではSF小説がない(翻訳されていない)こと。

    各国の未来予想図が見れたみたいで面白かったです。みなさんも万博への道すがら世界のSF小説を読んでみてはいかがでしょうか。混んでてそれどころでないかもしれませんが。

  • 積読四天王の一角を読破しました!

    積読。未踏の山。果たされなかった約束。届かぬロマン。挫折の結晶。買ったものの未読のまま放置された本を積読と呼ぶのですが、筆者も本好きの例にもれず読破した本と同じくらい積読本があります。

    その中でも何度も挑戦し、そのたびにはじき返される本を筆者は勝手に積読四天王と呼び、畏怖し本棚に祀っていました。今日、その牙城の一角を崩しました。誰にも讃えられることのない個人的な偉業です。

    今回はあえてまだ読んでいない本、積読本、積読四天王を紹介します。読んでいない本を紹介するという、書評ブログにはあるまじき暴挙にうってでます。

    1 カラマーゾフの兄弟 

    本好きには説明不要の巨塔。ロシア、いや世界を代表する小説です。いやしくも本好きを自称するなら読んでいなければいけない本ですが読めていません。この小説を一言で要約することは不可能。父殺しを発端に、家族の愛憎劇、神学論争に発展していく、らしいです。前半で挫折したので断言するのはやめておきましょう。

    積読ポイント

    馴染みのないキリスト教について長々と論争するシーンでいつも挫折。この時代、宗教が重要な意味を持ち、熱く語れるトピックであることは伝わってきました。きっとこの先面白い展開が起こることは伝わってくるんですが、いかんせん宗教の素養がないので読み辛い。いつか読破しようと思います。

    2 青い脂

    これまたロシアの小説。あえて一言で言うなら文字で書かれた混沌でしょうか。ロシアを代表する作家がクローンとして復活、文学作品から抽出される青い脂を巡ってスターリンとフルシチョフが争奪戦を繰り広げる・・・・。なんのこっちゃですが、あらすじよりも実物のほうがなんのこっちゃです。

    積読ポイント

    とにかく文体がすごい。なんと中国語と作者のオリジナルの造語が混じっているのです。それを日本語に翻訳するという・・・・。文章の独創性のえぐみに加えて展開がシュールなのでより読み辛い。カラマーゾフの兄弟は頑張れば読めそうという希望を持てるのですが、この小説は一抹の希望すら持たせてくれません。

    3 死霊

    日本を代表する難解本。日本初の思弁小説だそうです。作者はこの小説を完成させるために50年の歳月をかけたとか・・・。ひときわ声が小さいのはまだ3行しか読めていないためです。ほぼ未読。読んですぐ、あかん、となり本を閉じてしまいました。

    積読ポイント

    3行しか読んでいないため、説明するのもあれですが、文章から漂う難解臭に怖気づきました。なんというのでしょうか、修羅場をくぐった剣豪の妖気というか、3行読んだだけで作家の「理解できるものなら理解してみろ」という気迫を感じてしまい、本を閉じてしまいました。

    4 族長の秋

    先日、やっと読破した積読本です。百年の孤独が面白かったので読んでみたのですが、異常にセンテンスの長い文体に絶句。息継ぎの少ない文章に難儀し、読むのを挫折していました。

    ただ、物語自体は面白かったのでいつか読破しようと思っていました。いつも夜に読んで寝落ちしていたので朝に切り替え読むなどの工夫をし、やっと読み終えることができました。長かった。

    いつか行こうと思っていた未踏の山を越えたような、充実した読書体験でした。いやあ疲れた。

    上記の積読本もいつか読んでやろうと思います。青い脂と死霊は読める気がしませんが・・・。

  • 呪われたジグゾーピース。徐々に輪郭の出てくる地獄絵図

    もう3週間前になるのですが、行方不明展というホラー展覧会に1人で行ってきました。彼女を誘ってみたもののやんわり断られ、友人にもホラー好きがいないためのソロ活です。おそらくこの展覧会に来る客も自分みたいなピンのホラー好きばかりだろうなと思っていたらびっくり。そこには若いカップルやイケイケな学生グループばかりが群れをなしていました。Z世代はホラーが好きとは聞いていたもののまさかここまで浮くとは。この状況がホラーでした。

    行方不明展は博物館×ホラーという独特の味わい。たとえばなんの変哲もない貼り紙に、意味深な解説がつくことでその展示品が不気味なものに変わるという、独特の演出がなされています。また展示品にはいかようにも解釈できる余地があり、背後にある物語を一人一人が考察できる仕組みになっていました。筆者は「失踪願望のある人があるスポットを使うことで、自分という存在を消せる場所に行く」というストーリーを展示物から感じ取りました。もちろんこの解釈が正解ではありません。

    行方不明展に行ったとき、この展覧会の作者の1人である梨という人物に興味を持ち、この人の書いた小説を読んでみました。梨です。食べ物ではなく作者の名前です。

    それが「6」という小説です。事前情報ほぼゼロの状態で読んでみました。

    読んだ印象は呪われたジグゾーピースです。6章構成なのですが章が進むほどに物語の背景にある世界観がわかってくる構成になっています。話が進むにつれピースが嵌り、一枚の絵が浮かんでくる仕組みになっています。最初の章はよく分からないけど不気味な夢をみたような感覚。背後の設定がよく分からないけど不気味さだけは伝わってきます。2章、3章と展開していくにつれて、こういう小説だったのか、ということが分かってきます。そして不気味さも増してくる。頭の中でジグゾーピースが組み立てられていくのだけど、完成された絵は地獄絵図なんじゃないかと推測できてしまう。

    そして6章でおぞましいクライマックスを迎えます。「読んでからも恐怖が続く」というのがこの小説のキャッチコピーなんですがよくわかります。軽くネタバレすると仏教の教えが絡んでくるのですが、それをこう底意地悪く料理とするのかと、ある意味感心してしまいました。

    けして読後感は良くないホラーですが、それゆえに中毒性があります。最近のアトラクションホラーには飽きたという方は是非読んで下さい。纏わりつくような気持ち悪さを味わえますよ。

  • 文学フリマに行ってきました

    実はブログと並行して小説を書いているのですが、最近行き詰って書きあぐねていました。なんとなく書くモチベーションは下がっていく一方、これはまずいと思った時、文学フリマの存在を知りました。

    文学フリマ。文学のフリーマーケット。コミケの文学バージョンを想像していただくと分かりやすいのではないでしょうか。アマチュアの書き手さんが自作の小説や短歌、エッセイを売っているそうです。小説を書いている人はおろか、読んでいる人を見つけるのも難しいこの時代、アマチュアの書き手が一同に介する文学フリマに行って刺激をもらっていこう。そう考え、会場のインテックス大阪に弟を連れて行ってきました。

    事前情報はほぼゼロの状態で行った僕は、正直規模感はまったく掴めませんでした。くどいようですが小説の書き手はおろか読み手すら見つけるのが難しいこの時代、はたして素人の作家の書いた小説を求めてどれだけの人がくるのか・・・・。

    行ってみて驚きました。人がめちゃくちゃ集まってて、賑わっていました。本好きが一体どこに今まで隠れていたのか、出版不況が嘘のような活気。ただそこは本好き独特の静かな活気、とでもいうような空気感がありました。文学フリマのある2号館の隣の3号館ではコヤブソニックがやっていたのですが、そこから出てくる人の活気とはまた違った文化系の人×5,000人の活気です。

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    会場には1,000点以上のブースがあり、めぼしい本がないか会場を探索しました。ブースに出店されている本は本当に多種多様。ヤクザの短歌集や、AV監督の書いた映画論の本、はたまたここでは書けない変態性欲を爆発させた本まで、書店に出回らないニッチな本がたくさんありました。

    文学フリマを歩いて僕は正直疲れました。言ってみれば書店は管理の行き届いた動物園、文学フリマは野生のジャングル。油断していると書店では見かけないような妄念の爆弾みたいな本に出会います。ネットで話題とか、何々賞受賞とか分かりやすい看板のない無数の本の中から、直観を働かせて一つの本を選ぶのが難しい。自分が今までいかにお膳立てされた世界で本を選んでいたのか痛感しました。

    僕がもぞもぞしている間に、弟は何冊かの本をピックアップしていました。その中から西之まりもさんの「佐伯家の一週間」という本と、大阪芸大文芸学科の「出目金と翡」という本を買いました。(ちなみに後者はタダ!)この本についてはおいおい語ろうと思います。

    文学フリマに行って収穫はありました。アマチュア作家さんたちの内に秘めた活力に直に触れられたところと、自分の見ていた世界はまだまだ狭かったということを自覚できた点です。

    来年は直観で光る本を選べるようになり、いずれは自分が出店する側に回れるようになりたいと思います。

    さあ、書くか!

  • 日本人初!ダガー賞受賞!まるで映画のような迫力

    僕は読書以外にも映画鑑賞が趣味です。特にホラー映画やバイオレンス映画が好きです。現実にホラー体験や暴力体験はしたくないんですけど、フィクションは別腹。よくマニアックなホラー映画をネットで見つけては映画館で観ています。

    今回おススメしたい本は、日本人で初めてダガー賞を受賞した「ババヤガの夜」。日本人初という惹句に惹かれて手に取りました。ダガー賞はイギリスの推理作家協会が主催する賞で、世界の名だたるミステリー作家が受賞する世界を代表する賞です。日本では東野圭吾や伊坂幸太郎などの錚々たる顔ぶれがノミネートするも受賞ならず。そういうすごい賞なんです。

    この小説を読んだ感想は「映画やん。」でした。しかもオレが好きなやつやん。

    この小説の特筆すべきところはアクションシーンです。喧嘩と暴力が大好きな主人公の新道依子はヤクザに喧嘩を売られます。新道依子は怯むどころかヤクザと戦いボコボコにします。

    そのシーンが活字で表現されているとは思えないほどスムーズに頭に入ってくるんです。アクションシーンの映像喚起力が凄まじい。著者は格闘技の動画を見たり、絵コンテを描きながらアクションシーンを書いたそうです。

    このヤクザとの喧嘩を見た柳というヤクザにスカウトされ(というより拉致され)新道依子は組長の娘の尚子のボディーガードを務めることになります。

    散々映画みたいと評してきましたが、ババヤガの夜の魅力はそれだけではありません。この小説、後半ではあっと驚く仕掛けが施されています。その仕掛けが映像ではまず表現できないんです。小説ならでは特徴を利用して読書を驚かせてくれます。詳しくは述べられませんがそれがすごい。

    映画に肉薄する描写力と、小説ならではの仕掛け、これらがあいまってババヤガの夜ならではの作品に仕上がっています。ダガー賞受賞も頷ける出来栄えです。

    暴力描写は苦手という方にはおススメできませんが、クエンティン・タランティーノとかクローネンバーグとか好きな人にはおススメです。

  • グランマ・ゲイトウッドのロングトレイル

    67歳で3500Kmの山脈を縦断したスーパーおばあちゃん

    おひさしぶりです。最近いろいろバタバタしてて更新遅れました。

    突然ですが、僕には読書の他にも登山という趣味があり、2日前から木曾駒ケ岳に登山していました。

    そこはまさに別世界。見渡す限りに大自然のパノラマ。それは至福のひと時でした。

    移動中の特急列車で吐きそうになったり、いろいろ疲れましたがすべてが吹き飛ぶ瞬間でした。

    さて。今回紹介したい本は山つながり。山は山でもアメリカのアパラチアントレイルという3500Kmに及ぶ山脈がありまして、それを女性で初めて踏破した人のノンフィクション本です。

    それがなんと67歳のおばあちゃん。しかも登山を始めたのは67歳からという驚きの実話です。この偉業を達成したのはエマ・ゲイトウッド。通称グランマ・ゲイトウッドとしてアメリカのハイカーたちに親しまれています。

    この本ではアパラチアントレイルの過酷さと、それにめげないゲイトウッドおばあちゃんのタフさとパワフルさが書かれています。

    361ページに及ぶ分厚さの本に、アパラチアントレイルの描写とゲイトウッドおばあちゃんの人生がみっちり書き込まれているので読み応えは抜群。ただ、思ったより重厚な本なので読み手の体力も問われる内容になっております。

    3500kmの山脈を縦走するわけですから、トラブルがないわけはありません。ゲイトウッドおばあちゃんは蛇に襲われかけたり、女浮浪者扱いを受けたり、靴は何度も履き潰しながら、山を越えていきます。小屋が見つからない時は野宿もしたそうです。

    そんなおばあちゃんは実はDV夫に悩まされていた主婦だったそうです。離婚が成立するまでゲイトウッド氏は旦那に殴られたり、首を絞められたり、殺されかけた日もあったそうです。

    数々の苦難を乗り越え、ゲイトウッドおばあちゃんは3500Kmに及ぶアパラチアントレイルのスルーハイクに成功します。さらにすごいのはその後、もう2回アパラチアントレイルをスルーハイクし、標高4000フィート(1219メートル)以上の山46の山々をすべて踏破し、オレゴントレイルに成功したことです。公式の記録だけでも彼女は2万2530km歩いたそうです。

    この本を読むとすごい元気な気持ちになります。人間に限界はないと身を持って教えてもらったような気分になります。なんだかんだと年を言い訳にしたくなる年齢になってきましたが、彼女を見習って前向きに活動していきたいです。

    さあ、明日も登るぞ!

  • 口訳古事記

    こんなにオモロくて大丈夫?日本の神話が関西弁で復活!

    突然ですが古事記についてどういうイメージをお持ちですか?天皇にまつわる由緒正しい神話、日本書紀に並ぶ歴史的資料、よく分らない、難しそう。いろんなイメージがあると思いますがどちらかというと堅苦しいイメージがあるかもしれません。

    僕も田舎が島根だったこともあり、興味を持って偉い学者訳の古事記を読んでみたのですが、5ページで挫折していまいました。以来、古事記はなんだか有難そうだが難しいものとして遠巻きに見るものでした。

    しかし、僕の好きな作家の町田康さんが翻訳するということなので思い切って読んでみることにしました。しかし、一抹の不安もありました。町田康さんと言えばラフな関西弁で文学界に殴り込みをかけたパンクロッカー。町田康と古事記は水と油ではないか?町田康さんの個性が死んでしまうのでは?

    結論から言うと杞憂でした。古事記を訳す時でも町田康は町田康でした。

    以下は口訳古事記に出てきたセリフです。

    「兄貴、暇やからその辺のボケなんかしばきにいこか。」

    「めんどいから明日にしようや。」

    「ほなそうしようけ。」                                p,211

    メチャクチャフランク。ごっつ関西弁。全編こんな感じの文章が続きます。地の文も、かんざしをヘアアクセと訳したり、魑魅魍魎を八種類の気持ち悪いキャラクターと訳したり、やりたい放題。おかげでスラスラ読めるんですわ。

    そこで浮かび上がってくるのは古事記自体の物語の面白さ。学者の訳では分からなかったのですが、古事記自体が相当破天荒な物語です。

    例えば大国主神のエピソード。

    美女の八上比売という女神は大国主神が好きだという理由で、大国主神の兄たちの求婚を断ります。

    それで兄たちはわりとフランクに大国主神を殺しちゃえ、と考えます(おいおい)。それであれこれ策略を巡らせ大国主神を殺そうするのですが、その策略がメチャクチャ雑なのです。

    兄たちは大木に挟まる遊び(なんだそれ)を楽しそうにやります。それを見ていた大国主神が真似して大木に挟まっているところを潰すという謀略なのですが、大国主神は見事にひっかっかります。

    それで一回大国主神は死ぬのですが、お母さんの力で生き返ります。しかも死ぬ前よりイケメンになって復活するというオマケつき。なんでやねん。ツッコみどころ満載です。

    他にも神と女神で出会って数秒で結婚したりいろいろクレイジー。

    そう、訳もハチャメチャなのですが、古事記自体がストーリーとしてわやくちゃなのです。知らなかった。

    もともと神話というのは民の口から口へ語り継いで広がったもの。むしろ町田康さんの訳し方が本筋なのかもしれません。

    474ページの大長編ですがそんなこと感じさせない面白さ。騙されたと思って読んでみて下さい。

  • 働く君に伝えたいお金の教養

    生きてるってお金がかかりますね・・・・。急にお金の話ですみません。最近、携帯の買い替えとパソコンの買い替えが一気に来まして、生きてるって金がかかるなって当たり前のことに気がついた今日この頃です。

    お金が欲しい。そう思ったときに僕の悪い癖で、そもそもお金って何だろうと根本を考えてしまいます。就職のときもそうでしたが、そもそも働くとは何かという答えのない問いを立て、あれこれ考えるうちに時間を浪費してしまいました。僕はこれをそもそも病と呼んでいます。一見哲学的ですがまあ現実逃避ですよね。でもまあ考えてしまうわけです。お金の本質が分かり、なおかつ実践的な本はないか、と探したらありました。

    うちの本棚に。灯台下暗し。

    今回紹介したい本は出口治明著「働く君に伝えたいお金の教養」です。

    出口治明さんと言えばライフネット生命を立ち上げ、立命館アジア太平洋大学の学長だったというすごい人です。著作も多彩で哲学の歴史を総ざらいした哲学全史や、全世界史という本をてがけています。

    そんな出口治明さんの本なので、単にお金を儲ける投資本や節約本とは一線を画します。「お金は使わないと意味がない」「老後の不安をメディアが煽るのはメディアが儲けたいから」など従来の常識とは異なる意見もたくさんあります。今回はこの本のなかで特に感銘を受けたポイントを伝えたいと思います。

    投資で最も大切なのは自分への投資

    投資とは言えば株や積立NISAなどの金融商品への投資をイメージすると思います。しかし、出口さんは一番リターンの大きな投資は自分への投資だと断言します。人が一生に稼ぐお金の平均額は2億円前後だといいます。出口さんいわく、自分への投資はこの2億円を大きく増やせる可能性がある。

    株で2億稼げるのは一握りのデイトレーダーだけです。しかし、自分への投資に成功して年収が上がれば、2億円が3億にも4億にもなると出口さんは言います。その視点は全くなかったので僕は目が啓かれる思いでした。

    では自分の投資では何に投資すべきか?資格の勉強のために学校に通うべきか?

    出口さんは自分の可能性を広げるものなら何でも投資である、と言います。そして自分が好きなものに投資するのが一番いいと言います。将来がどうなっていくのか、それを予測することは出口さんですら不可能であると言います。例えばAIが今流行っているからと言って興味のないAIの勉強をしても身につく可能性は低い。ならば素直に自分の好きなこと、得意なことに投資する方がずっと身につく可能性が高いというわけです。

    たしかに僕が今から株に手を出すくらいなら、好きな本を買うことや文章を書くことに投資した方がいいと思いました。なにより楽しいし、気持ちが前向きになりますしね。

    惜しむらくはこの本が20代の新社会人向けに書かれた内容だと言うことでしょうか。不惑を目前にする前に出会いたかった。まあそんなこと言っても仕方ないのでこの本の教えを実行していきたいと思います。

    この本には他にも財産三分法など、お金の本質に触れられる内容がたくさんあります。お金は欲しいけど、お金儲けのノウハウ本には違和感を感じる方にはおススメの本です。

  • 天才と発達障害

    発達障害に限らず、なんらかの障害を抱えているとふつうに生きてるだけで自己肯定感はさがりますよね。ふつうの人ができることができない。できないことに目が向きがちな人も多いのではないでしょうか。

    今回紹介したい本はそんなひとを励ますような本です。

    その名も「天才と発達障害」。世に言う天才と呼ばれる人種は発達障害を始めとする、精神疾患を抱えていた人が多いと唱え、天才の生涯から発達障害の特徴を説明しています。

    この本で取り上げられている天才を列挙してみましょう。

    ADHD

    • 野口英世
    • 南方熊楠
    • 伊藤野枝
    • モーツァルト
    • マーク・トゥエイン
    • 黒柳徹子
    • さくらももこ
    • 水木しげる

    ASD

    • 山下清
    • 大村益次郎
    • 島倉伊之助
    • ダーウィン
    • アインシュタイン
    • コナン・ドイル
    • 江戸川乱歩

    錚々たる顔ぶれですね。これだけの有名人が発達障害だったとは驚きです。

    今回はADHDはモーツァルト、ASDはダーウィンを例に天才と発達障害の関連性について書きたいと思います。

    型破りなモーツァルト

    モーツァルトは知らない人がいないほどの音楽の天才ですが、伝記によるとかなり型破りな変人だったようです。
    彼はいつも落ち着きが無く、常に動き回り、甲高い声でよく喋ったようです。

    馬車馬モーツアルト

    モーツアルトは馬車馬のように動き回りました。朝の6時には起き、夜の9時まで生徒のレッスンや作曲、コンサートなどの予定が詰まっていたようです。モーツアルトは仕事に熱中しました。一方、家事や雑事には無頓着で中庸というものが無かったそうです。

    ギャンブル狂だったモーツアルト

    モーツアルトは莫大な収入があるにもかかわらず常に借金に追われていました。原因はギャンブルによる破産です。モーツアルトは大のギャンブル狂だったのです(しかも弱い。)

    モーツアルトに限らずADHDのひとには依存症の人が多いようです。自制心の弱さがその一因なのかもしれません。

    社会性に乏しいダーウィン

    一方のダーウィンは子供の頃から社会性に乏しく、周囲からは変わった人間だと思われていました。
    ダーウィンは子供のころから一人で長いこと歩き周り、いろんな物を収集する癖があったそうです。
    ダーウィンは特定の生物に熱中し、生態の観察や採集に没頭しました。そのころの経験が進化論に活かされたのは想像にかたくありません。

    ロイヤルニートだったダーウィン

    実はダーウィンは社会人経験がありません。家は資産家で金のことはもっぱら家に頼っていました。今でいうすねかじりのニートだったのです。しかし、そのおかげで好きな研究に没頭できたわけで、ここらへんは一般的な常識でダーウィンを評価してはいけないのかもしれません。
    ダーウィン自身も自分は社会人としてはやっていけないと薄々気づいていたのかもしれません。

    規則魔だったダーウィン

    ダーウィンには決まった日課があり、それを毎日規則正しく繰り返していました。ダーウィンは2キロメートル四方の家を毎日一定時間散歩するのを日課にし、それを数十年繰り返していました。他にも仕事の時間や妻と談笑する時間も決まっており、その規則が崩れると体調を崩しました。こういうところもASDの特徴と言えるでしょう。

    子供の伝記だと、偉人の尖った部分は削られて、ただの立派な人になっていますが、こうみると偉人たちも一癖も二癖もある人が多かったようです。

    この本を読むと個性というのは欠点の裏返しだということが分かります。

    欠点を補うことも大切ですが、自分の強みを伸ばしたり、個性を活かすことも大事なのではないかと偉大な先達のエピソードを見て思いました。

    この本には発達障害以外にも統合失調症や、鬱病などの精神障害も扱われています。

    障害に悩み自分を見失いそうになったとき、この本を読んでみてはどうでしょうか?

    個性を考えるときのヒントになるかもしれません