考えるな!感じろ!シュールレアリスムの極北
世の中には難解な本があります。読むだけで身悶えするような、字でできた断崖絶壁。その山に好んで挑戦する好事家たちがいます。今日はそんなクライマーたちが好んで読む作家、安倍公房の最後の小説、カンガルーノートを紹介しようと思います。
僕が思うに難解さには二種類あります。一つは左脳型。数学や哲学書など理論が複雑すぎて難解、というやつです。
もう一つは右脳型。ピカソやダリの絵に代表される、シュールすぎて意味が分からないという難解さです。
基本的に文学には左脳型の難解な本が多いです。やはり文字を読む行為は左脳を刺激するのでしょう。しかし、文学の世界はごく稀に右脳型の難解な小説を書く天才が現れます。
古くは主人公が毒虫に変わるという衝撃の書き出しで始まる変身を書いたカフカ。最近では村上春樹がこのタイプにあたるでしょう。
そして今回紹介する作家、安倍公房も右脳型の難解小説を書く天才じゃないかと思います。
なにが難解なのか?まずカンガルーノートのあらすじを読んでみてください。
ある朝突然、<かいわれ大根>が脛に自生していた男。訪れた医院で、麻酔を打たれ意識を失くした彼は、目覚めるとベットに括り付けられていた。硫黄温泉行きを医者から宣告された彼を載せ、生命維持装置付きのベットは、滑らかに動き出した・・・。坑道から運河へ、賽の河原から共同病室へー果てなき冥府巡りの末に彼が辿り着いた先とは?
いかがでしょうか?意味が分かりますか?これは本のあらすじを一言一句書き写したものです。おそらくこのあらすじを見た人の反応は2つに分かれるのでないかと思います。
意味分からん。無理!という人と、意味分からん、面白そう!という人。
僕は後者でした。なのでカンガルーノートを買い読みました。
読んだ印象は地獄のイッツアスモールワールド。イッツアスモールワールドというアトラクションはご存知ですか?ディズニーランドにあるお伽の国をゴンドラでゆっくり回るアトラクションです。
脛にかいわれ大根が生えた主人公は、自走するベッドに乗って、死後の世界を思わせる摩訶不思議な世界を巡ります。
地獄巡りと言いましたが、その描写はコミカルで笑ってしまいます。三途の川を思わせる賽の河原は観光地化され小鬼のガイドが引率してくれます。脛に生えたかわいわれ大根を使った、サンドイッチやみそ汁などを食べさせられたりと、M本H志氏が真っ青になるようなシュールな笑いが小説全編に漂っています。
どこまでもシュールな作品ですが、その背後にはどことなく死の匂いが。それもそのはずこの小説は安部公房が死の2年前に刊行された遺作なのです。彼は忍び寄る死にシュールな笑いによって立ち向かったのかもしれません。彼なりの死後の世界の考察である気もします。
とまあ、もっともらしい解説をつけましたが、真実は闇の中です。この難解な小説を考察してみるもよし、ただ笑い飛ばしてもよし、いろんな解釈のできる名作です。体力に余裕のある日に読んでみて下さい。
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